ざっくり分かる医療保険のしくみ

今回は少し医療経済学に戻って、医療保険の構造と名称の整理をします。これは医療経済学だけではなく、アメリカや海外で実際に医療保険を購入される方にも有用な情報だと思います。また国際保健分野での皆保険制度(UHC; Universal Health Coverage)に興味関心がある方もきちんと全体像と言葉の使い方を理解しておく必要があると思います。日本と違い、アメリカをはじめとして多くの国の医療保険制度はとても複雑です。どの医療保険に加入するのかを考えた時に考慮する必要があるのは、(1)保険料、(2)窓口での自己負担(直接支払い額)、(3)カバーされる医療機関の範囲、(4)カバーされる医療サービスの種類の4つになると思います。

(1)保険料・・・Premium, contribution, or payroll tax?

保険料はいざというときに医療保険から還付を受けるために毎月支払う必要のあるお金です。民間(私的)医療保険(Private health insurance)の場合にはPremium、日本のような社会保険(Social health insurance)の場合にはContributionと呼びます。さらには税金として給与から天引きされて徴収される場合にはPayroll tax(給与税)と呼ばれます。イギリスの医療費は全て税金で賄われているのでPayroll taxですし、アメリカの高齢者向け医療保険メディケアの保険料も税金として徴収されているのでPayroll taxと呼ばれます。一方で、日本の医療費は税金ではなく保険料として徴収されているので、Contributionになります。実際には国際機関でもアカデミアでもPremiumとContributionはけっこうあいまいに用いられていますので、迷った時にはPremiumを使った方が確実に意味が伝わると思います。

国際保健、特にUHCの領域では医療財源の確保の仕方において保険料と税金を分けることに大きな意味はないと考えられるようになってきています。医療の為に使われるお金をプールすると言う意味では同じことになるからです。医療費の財源としての税金に目を向けると、用途が特定されていない一般税(General tax)と、医療の為に使うことがあらかじめ決まっている目的税(Earmarked tax)のいずれを財源として用いるかで意味合いが変わってきます。一般税の場合には財源のプールが大きいので(国家の歳入全体がプールとなります)医療費が足りなくなるという心配はありませんが、毎年のように予算配分などの政治的プロセスを経る必要があるので政争(Politics)の対象になって医療費カット等が起こりやすいうデメリットがあります。ある大統領が国民の支持のもと、UHCに向けての医療改革を進めていたとしても、一般税を財源にしていた場合、政権交代に伴ってUHC達成に必要な医療財源が十分に配分されなくなってしまうというリスクがあります。一方で、目的税は用途が明確に規定されていれば他の目的のために用いることができないので、政争の影響は比較的少ないと考えられます。もちろんこの「明確に規定されている」という部分が重要になります。「社会保障に用いる」などというざっくりとした規定でしたら年金に回されてしまうかもしれませんし、「主に医療の為に用いる」となっていれば医療サービスに充てられる割合が段々と小さくなって行ってしまうということもあるかもしれません。あとは「税金」という言葉を使うことで政治的ダメージを受けることが心配されるため、多くの政治家は「保険料」(医療サービスの給付を受けることと交換条件であるというニュアンスを持つ)と言う表現を使うことを好みます。

(2)窓口での自己負担・・・Deductible, co-insurance, copayment, and out-of-pocket maximum

Health insurance

医療費の自己負担(Out-of-pocket payment)も複雑です。医療サービスを受けた場合、総額がその金額に達するまで医療費の還付(Reimbursement)を受けれないレベルをDeductible(保険の控除免責額)と呼びます。この金額以下である場合には、全額自己負担となります。Deductibleを超えて医療サービスを受け続けると、医療保険の還付が受けれるようになります。この時に、かかった医療費のうち一定の割合が保険でカバーされる仕組みをCo-insurance(自己負担割合)と呼びます。一方で、かかった医療費に関わらず一律決まった金額を支払う場合にはCopayment(自己負担額)と呼びます。日本の医療費は子供と高齢者を除いて30%負担ですので、Co-insuranceになります。外来受診一回あたり一律100円の窓口負担を求めよう、という動きがありましたが、こちらは一律負担ですのでCopaymentになります。このCo-insuranceとCopaymentもけっこうあいまいに使われています。迷ったらCopaymentを使う方が良いと思います。

医療費の自己負担額がある程度大きくなると自己負担がゼロかそれに近いとても小さい金額になる医療保険プランがあります。この上限額のことをOut-of-pocket maximum(自己負担額上限)と呼びます。この上限よりも上の部分の医療費だけをカバーする医療保険制度もあり、その場合にはCatastrophic health insurance(高額医療費保険)と呼ばれます。日本の「高額療養制度」がこれらに相当します。

(3)カバーされる医療機関(病院、医師)の範囲

アメリカではオバマケアで民間医療保険同士の差別化が制限されたため、各保険がカバーする医療機関を狭めてきており問題となっています。保険料がとても安いプランを購入したら、かかることのできる病院がすごい辺鄙なところにあったり、チャイナタウンの真ん中で中国語しか通じないなんてこともあるようです。これは1つは価格の安い病院を囲いこんで高い病院を外すことで保険料を安く抑えようという目的があります。また、こういった給付内容があまり良くないプランは健康で病院にかかる確率の低い若者が入ることが多いので、低リスク患者の選択(Risk selection)のツールの1つとして用いられているという側面もあります。アメリカ型の医療保険では保険の種類によってかかることのできる医師や病院が決まってくるので、自分の地域にある病院がカバーされているか、自分のプライマリケア医がプランに入っているかなどを確認することが重要になります。

(4)カバーされる医療サービスの種類

日本では診療報酬制度によってどの医療保険でも受けれる医療サービスは一定ですが、他の多くの国ではそうではありません。医療保険の種類によってカバーされない医療サービスもあります。抗がん剤が医療保険でカバーされなかったり、妊娠・出産がカバーされる医療保険もあります。自分が将来どのような医療サービスを必要とするリスクがあるのかを予想し、必要なサービスをカバーしてくれる医療保険を購入する必要があります。WHOが提唱するUHCの考え方(下図)においてもカバーされる医療サービスの種類は3つの軸の1つに選ばれている重要な項目です。

UHC cube

 

出典:World Health Report 2010

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