疫学の「因果関係ダイアグラム(Causal diagram)」

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Judea Pearl

前回までのブログで「統計学におけるルービンの因果モデル」と「心理学におけるキャンベルの因果推論」のお話をしたので、今回は疫学(Epidemiology)における因果推論の話をしたいと思います。ここでご説明する「因果関係ダイアグラム(Causal diagram)」とは、元々はコンピューター・サイエンティストであるジューデア・パール(Judea Pearl)が1995年に発表したコンセプトですが、その後、疫学の世界で広く受け入れられ、用いられるようになったため、ここでは「疫学における因果推論」とさせて頂きます。因果関係ダイアグラムはDAG(Directed Acyclic Graph=非巡回有向グラフ)とも呼ばれるので、ここではDAGという略称を使います。ハーバード公衆衛生大学院のジェームス・ロビンス(James Robins)とその弟子であるミゲル・ハーナン(Miguel Hernan)は、この因果関係ダイアグラムを広めた功績者として認められています。

DAGではまず矢印を用いたグラフで因果関係を「可視化」します。その図の中では、時間の流れは常に左から右で表現されますので、矢印の向きは右向きになります。そのため、矢印が戻ってきてループが閉じることがありません。これが「非巡回(Acyclic)」と呼ばれる所以です。一方、「有向(Directed)」とは「向きが有る」ということを意味していますので、矢印を使ってその矢印が因果関係を表していることを表現しています。つまり「原因→結果」という意味で矢印が使われます。

DAG1

一番シンプルなDAGはこのようになります。ここではX原因、Yは結果、そしてLは交絡因子(Confounder)、またの名を内生性(Endogeneity)、を表しています。交絡因子とは、“「原因」と「結果」の共通の原因”のことです。LからXに矢印を引くことができ、さらにLからYにも矢印を引くことができると、はじめてLは交絡因子となります。交絡因子があるまま解析をすると、XとYの因果関係を間違って評価してしまいます。例えXとYが無関係であってもLのせいで見かけ上相関関係があるように見えてしまうこともあります。逆にXとYに因果関係があっても、Lの影響で無関係のように見えてしまうこともあります。このLの影響のことを「バイアス」と表現します。Lの影響を除くためには、Lで「補正」するか「層別化」する必要があります。そうするとLの影響を取り除いた状態で、XとYの真の関係を評価することができるようになります。

XからLを通ってYに行く過程が、裏口を通っているようにも見えるため、このLによるバイアスを「裏口からの因果経路(Backdoor path)」と呼びます。そして、補正や層別化によってLの影響と取り除くことを、「裏口からの因果経路を閉じる」と表現します。

DAG2

図1

前述のように、Lが交絡因子としてXとYの関係に影響を与えるためには、Lは「XとYの共通の原因」である必要があります。もしLがXかYのいずれかにしか影響を与えていない場合には、Lは交絡因子ではありません。その場合は、Lで補正しなくてもXとYの真の関係を評価することができます。

DAG4

LからXに矢印を引くよりも、XからLに矢印を引く方が適切な場合も、Lは交絡因子ではなくなります。この場合、Lは中間因子(Intermediate variable)と呼ばれます。この場合、Lでは補正・層別化するべきではありません。もし間違ってLで補正・層別化してしまうと、XとYの真の関係を弱めてしまい、本来だったら因果関係のあるものを、関係がないと評価してしまう可能性があります。

DAG5

「裏口からの因果経路」は矢印がつながっていればいつも生じるわけではありません。矢印の「向き」が重要になります。2つの矢印がLから(XとYの両方に)伸びていれば、Lは裏口を開いていることになります。一方で、2つの矢印がLの方向を向いている場合には裏口は閉じています。後者の場合には補正や層別化をする必要がありません。逆に後者の場合に補正・層別化すると、裏口を空けてしまうことになるのです。Lが交絡因子であれば補正・層別化することでバイアスを取り除くことができます。2つの矢印がLの方向を向いていたら、Lで補正・層別化することで逆にバイアスを導入してしまうことになります。

Backdoor

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