「将来必要になる医師数」の推定はあてにならないので、医師数は増やしすぎないことが重要

日本ではここ数年で医学部が新設されおり、医師数を増やす方向に向かっているようです。将来、日本の医師数が過剰になるのか不足になるのかという議論は両サイドのデータがあり、何が正しくて何が正しくないのかはっきりしません。実際のところどうなのでしょうか?

私は個人的には、医師数を増やしたい場合には医学部新設ではなく、医学部の定員増で対応するべきだと考えます。その理由は以下の通りです。

  1. 将来の適正な医師数の予測モデルは「あてにならない」
  2. 医学部新設よりも医学部定員増の方がコストを抑えられる
  3. いったん増えてしまった医師数は政策で減らすことができない
  4. 医師は需要を誘発するので医療費が増えてしまう(日本では医療費の総額が決められているので医療従事者の給与が下がる?)
  5. 医師を養成するよりも看護師などの職種を養成する方がコストを抑えられる

 

1.将来の適正な医師数の予測モデルは「あてにならない」

おそらくこれが最も重要なポイントです。アメリカでは何十年も前から適正な医師数の予測に関する研究が数多く行われており、実際に政策にも影響を与えてきています。その数十年にわたる歴史の中で分かったことは、適正な医師数の予測モデルは「あてにならない」ということです。ニューハウス教授もラインハート教授も予測モデルの結果はあてにならないと述べています。どのような研究が行われてきたのか簡潔にご説明します。

どのように必要な医師数を推定するのか?

適正な医師数の予測モデルには大きく分けて2つの方法があります。①疫学・必要数(Epidemiologic/Need)をもとに推定するモデルと、②需要(Demand)をもとに推定するモデルです。

①疫学・必要数(Epidemiologic/need)をもとに推定するモデル

このモデルでは、以下の数式で必要な医師数を推定します。

必要な医師数=(人口1人あたり必要な受診回数)×(将来の人口)÷(医師1人あたりの受診回数)

まず「人口1人あたり必要な受診回数」を推定するのが難しいのが問題です。今の時点で見られている受診回数を使っても良いのですが、それが本当に「必要な」レベルなのかは分かりません。医師誘発需要の問題もあり、地域の医師数が増えれば「人口1人あたり必要な受診回数」も増えてしまい、それが本当に必要なものなのかはますます分からなくなってしまいます。

②需要(Demand)をもとに推定するモデル

こちらのモデルでは、需要はGDPのレベルによって決まり、そして供給=需要という数式が成り立つと仮定します。下記の数式でf()とはカッコの中のGDPの数値で数式の左側の需要の値が規定されているということを意味しています。

需要=f(GDP)

供給=需要

Cooperらの2002年の論文によると、GDPが1%増加すると、0.75%医師の需要が増加すると推定されています。こちらのモデルでは患者さんの需要をもとに必要医師数を推定しているので、(疫学・必要数モデルと比べると)医師誘発需要によって誤った推定値になってしまうリスクは少ないと考えられます。ただし、「供給=需要」が成り立つのは市場原理が成り立っていることが前提ですので、これが正しい仮定なのかはまだまだ議論のあるところです。

将来の適正な医師数の予測モデルは当たるのか?

アメリカでは医師数は将来的に過剰になるので医学部の定員を減らすべきである、もしくは医師数は不足になるので早めに医学部定員増に向かうべきである、という議論が飛び交ってきました。あるものは政策に影響を与え、あるものは無視されてきました。1927~32年にはCommittee of the Cost of Medical Careが疫学・必要数モデルを用いた研究で、医師数は不足すると予測しましたが、(当時は米医師会AMAの力が強かったこともあり)政策にはほとんど影響を与えませんでした。1967年にはNational Heath Manpower Commissionが需要モデルを用いて、医師数が将来的に不足すると予測しました。これは政策に大きな影響を与え、1970年には年間約8,000人であった医学部卒業生の数が、1980年にはおよそ16,000人へと倍増しました。1979年にはGMENAC(General Medical Education National Advisory Committee)が、再び疫学・必要数モデルを用いて解析したところ、将来的に医師数は過剰になると推定しましたが、これは政策にほとんど影響を与えませんでした。1996年にはジョナサン・ワイナー(Jonathan Weiner)が医師に事務作業をあまりやらせることなく医療サービスの提供に集中させることで、適正な医師数は少なくできると報告しました。この影響を受けて、1996年にはCouncil of Graduate Medical Educationは医師数は将来的に過剰になると報告しました。アメリカで見られた紆余曲折をまとめると下のようになります。

DoctorShortage

以上のことからも分かるように、適正な医師数の予測モデルはあまりあてにならなりません。よって、医師養成数に関する政策を決めるにあたっては、これらの研究結果にあまり依存せずに、たとえ予測があたらなくてもフレキシブルに対応できるような政策にしておくべできであると考えます(これはラインハート教授もしばしば言っていることです)。仮に、政府が将来の医師数が足りなくなると推定したとして、もし医学部を新設してしまうと予測が当たらなかったときに医師養成数を減らすことは容易ではありません。1校当たりの医学部入学者数を減らしても良いのですが、あまりに減ってしまうと施設や教員が有効活用できない状態になってしまったり、最悪の場合には法科大学院で問題になっているように定員割れになってしまう可能性もあります。一方で、医学部新設と比べると、医学部の定員増はフレキシブルなシステムだと考えられます。必要医師数の予測モデルが当たっていないことが判明した場合でも、いったん増やしていた医学部の定員を減らせば対処できます。もちろん教員数と生徒の数のバランスが悪くなってしまうかもしれないリスクはありますが、施設などの固定費用(Fixed cost)の部分は影響を受けないので、予測モデルが当たらなかったときの損失は(医学部新設と比べて)はるかに少ないと思われます。これが私が医学部新設よりも医学部定員増で対応するべきだと考える1つ目の理由になります。

(注)この項目の内容を書くにあたって医療経済学者であるハーバード大学のジョセフ・ニューハウス教授の授業内容と、プリンストン大学のウーヴァー・ラインハート教授のNYタイムズの記事を参考にしました。

 

 

2.医学部新設よりも医学部定員増の方がコストを抑えられる

まず、医学部新設よりも定員増の方がコストを抑えられます。医学部を「医師を生産する工場」だと見立てて経済学の考え方を当てはめます。そうすると下記の式が成り立ちます。

医師の生産にかかる総コスト(Total cost)=固定費用(Fixed cost)+可変費用(Variable cost)

固定費用とは生産水準とは無関係にかかる費用であり、人件費、設備資本費用等の固定部分が含まれます。医学部の例に当てはめると、医学部の校舎や事務方のスタッフの人件費(医学部の学生数が多かれ少なかれ、教務課など事務のスタッフは最低限必要になります)になります。一方で、可変費用とは、生産水準とともに増加する費用部分であり、人件費、資本費用等の可変部分や原材料費、出荷費等が含まれます。医学部であれば、定員が増えると増やさないといけないもの、つまり教員数などになります。この2つを見て頂ければ分かるように、医学部の定員増であれば固定費用は変わらず、可変費用が増加するだけです。しかし、医学部新設であれば固定費用も可変費用も両方コストがかかります。すでに100名の医学部生を教育しているのであれば、それが10人増えてもコストはそれほど変わりません(もちろん現場の負担が増えないように教員数などをきちんと増やす必要があります)。しかし医学部を新設するとなると、教員数を増やすだけでなく、校舎を新設するなどしてコストが高くなります。医学部の教育費用は授業料ですべてカバーされているわけではないので、これらのコストは回り回って税金でカバーされるようになります。ものすごくシンプルにしてイメージ化すると下記のような表が成り立ちます。

医学部新設 医学部定員増
固定費用(FC) ¥¥¥¥
可変費用(VC) ¥¥ ¥¥
総費用(TC=FC+VC) ¥¥¥¥¥¥ ¥¥¥

医師の数を増やすことが目的なのであれば、より少ないコストで目的を達成した方が良いのではないでしょうか?

 

3.いったん増えてしまった医師数は政策で減らすことができない

必要医師数の予想はあまりあてになりません。足りなくなったと思って医師の養成数を増やしたら、10年後にやっぱり医師は過剰になったということが起こりえます。よってそれらを考慮した上での政策が必要になります。医学部で養成されている医師の卵の数は政策でコントロールすることができますが、医学部を卒業して社会で医療サービスを提供するようになった医師の数はコントロールすることができません。医師免許を取り上げることもできませんし、職業を変えさせることもできません。コントロールのレバーが効くのは医師が医師免許を取るまでですので、医師の養成数は細やかなコントロールが必要とされます。医学部の定員増の方が医学部新設よりは細やかに人数調整ができますので、その点でも医学部定員増の方が良い政策だと思います。

 

4.医師は需要を誘発するので医療費が増えてしまう(日本では医療費の総額が決められているので医療従事者の給与が下がる?)

これも以前のブログでお話ししたので詳しくお伝えしませんが、医師は需要を誘発できるので、医師数が増えれば増えるほどかかる医療費が増えていきます。「日本では医療費の総額が決まっているので、医療費は増えない」と言う意見もあります。確かに日本では政府の意向で医療費総額が決まっているので、医療費が増えすぎて教育や防衛に税金を回せなくなるという事態は起こりえません(他の国では容易に起こることですが)。総額が決まっている中から、医師・看護師・コメディカル・事務スタッフの給与をねん出しないといけないのです。単純に医師の数が増えた場合、医師の一人当たりの給与が減るというのが一つ起こりうる可能性です。医師が余って職にありつけないような状態になれば、病院側も高い給与を出さずとも雇えるようになるからです。給与が安くなれば能力のある若者が医師を目指さなくなり、日本の医療の質が全体的に下がってしまうかもしれません。もしくは、医師の給与は変わらずに、その他の職種(看護師・コメディカル・事務スタッフ)の給与が代わりに下がるというシナリオも考えられます。医師は需要を誘発できますし、医療サービスのオーダーを通じて病院の収益に貢献できるため、今まで通りの給与を提示しておき、その一方で、その他の職種の給与を引き下げることで病院の収益を維持するというシナリオです。いずれにしても病院で働いている人たちはアンハッピーになってしまう可能性があると思われます。

 

5.医師を養成するよりも看護師などの職種を養成する方がコストを抑えられる

最後ですが、日本の財政を見て頂ければ分かるように高いコストをかけて質の最も良い医療従事者をどんどん増やしていくべきである、という状況ではないことは明らかだと思います。医療従事者を増やすにあたっても効率性が求められる状況です。医師を養成するのにかかる費用に関しては正確なデータがありませんが、医師一人を養成するよりも看護師一人を養成する方が費用が安いことは明らかです。アメリカのように、簡単な医療行為だったら行うことができるナースプラクティショナー(NP)を養成することができれば、医療の質を落とさずに養成にかかるコストだけ下げることが可能になります。数多くのエビデンスが、NPの提供する医療の質とプライマリケア医の提供する医療の質で違いがないことを証明しているからです。

 

今回のブログでは「医学部新設 vs. 医学部定員増」の議論しかしていません。実際に医師がいなくて困っている地域があることは重々承知していますし、もちろん解決すべき重大な問題ではありますが、それは「医師の地域偏在」の問題です。医師の足りていない地域に医学部を新設しても卒業生がその地域に留まってくれるかどうかは分かりません。そのような不確実な予測に依存するのではなくて、自治医大の定員を増やしたり、卒業後にへき地で臨床することを条件にした医学部生向けの奨学金を設立することで、より確実に偏在の問題は解決できるのではないのではないかと考えています。

また個人的には今まで通りの「医学部」ではなくて「メディカルスクール」であれば新設する意義もあるのではないかと考えます。従前の医学部教育では基礎医学に重点が置かれており、臨床医学の教育が不十分であるという指摘がありました。臨床能力の高い医師の養成は社会にとっても患者さんにとっても大きなプラスになると思いますので、そのために臨床医学の教育に重点を置いたメディカルスクールを設置することは、日本の医療のレベルを上げるポテンシャルがあると思います。

9件のコメント 追加

  1. 高橋 秀和 より:

    薬剤師です。今回の論説について、興味深く拝見しました。
    ご指摘の内容は、以前読んだことのある医療政策関連の書籍とも矛盾するものではなく、納得のいくものでした。
    しかしながら、現在政府が進めようとする方向性について、私が持っている印象とは異なります。
    私は、政府は医療について、新自由主義的な政策へと舵を切ろうとしているのだと理解しています。すなわち、需要にかかわらず医師を多数養成する一方で、公的医療費の抑制策として、保険医の定員制や診療報酬の包括化、あるいは混合診療によってコントロールしようとしているのではないか、ということです。実際に外来診療報酬の包括化は制度化が進みつつありますし、保険医の定員制については保健医療2035でも言及されています。自由診療分野での医師の存在は、新自由主義的な経済政策の理念に合致し、財政負担を生じずに経済刺激効果を生みます。

    ご指摘のように一般的には、医療政策上NP制度やスイッチOTC、リフィル処方箋といった受診抑制策によって医療費のコントロールを行うべきところでしょうが、現実の政治的には、日本医師会がそれに応じることはないだろうとも思います。

    医療政策学、医療経済学の分野においては、今回の論説のような社会民主主義的な医療政策と、これとは異なるアプローチをする新自由主義的な医療政策について、どのように区別・評価されているのでしょうか?

    もしお時間が許すようであれば、ご教授頂ければと願います。

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    1. Yusuke Tsugawa より:

      高橋様、

      コメントありがとうございます。自由診療の医療が経済刺激策になるかに関しては実はあまりエビデンスは無いのですが、少なくともハーバードの医療政策学者は医療経済学者は医療サービスによる経済刺激は良い政策ではないと考えているようです。混合診療のように部分的でも保険が使われていればモラルハザードが起こるので自由市場はうまく機能しません。美容形成のように完全に自由診療になったとしても、情報の非対称性があるのでやはり健全な市場は形成されません。患者サイドから医療の質や適正な価格は見えてこないので、患者さんは容易にだまされてしまいます。

      別の問題として自由診療や混合診療を含めた二階建て構造にすると、診療報酬に高価な薬などを含めるインセンティブが減ってしまうので、公的保険がカバーする医療サービスが「浅くなってしまう」可能性があります。自由診療でも払える人、自由診療部分をカバーする民間医療保険が買える裕福な人と買えない人たちの間で格差が広がってしまうの言うまでもありません。混合診療を進めて最も得をするのは民間の保険会社ではないでしょうか?ブラジルではアメリカの保険会社が同様の流れを受けてどんどん広まっていると聞きました。昨年の世銀のレポートでも民間医療保険に頼るシステムは推奨されないとされています。

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  2. 高橋秀和 より:

    津川様

    丁寧な回答、有難うございます。日本の皆保険制度に一定の評価があることは承知していますが、一方でオーストラリアの医療制度はうまく機能しているようにも感じます。これは限定された混合診療の規模が著効しているということではなく、単にステークホルダー間の利害調整の巧拙の問題なのでしょうか。
    もし仮に、医療職能団体と厚労省とが協同することができるのであれば、皆保険制度が望ましいことについては全く同意するものですが、現実的にそれは不可能であるようにも思います。

    ご説明の医療政策論は、私がこれまで見聞きしたものと同様に極めてオーソドックスなものだと感じますが、米国・英国・日本が採用する新自由主義的な政策とは相容れないように思います。現にオバマ氏の経済顧問はサマーズであり、今後その流れが変わるようにも思えません。ハーバードの学者の方々は、米国の医療制度に対しては批判的な立場なのでしょうか。またこれは経済学と同様に、大学ごとに志向する経済倫理が異なるということでしょうか。

    立て続けに質問ばかりですいません。もしお忙しいようであれば、コメントは結構です。
    貴重なコメントを伺うことができ、感謝しています。
    ネット上を探す限り、こういった意見を求めることができず、また成書では未だ疑問が解消されません。

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    1. Yusuke Tsugawa より:

      実はアメリカの医療制度は2010年のオバマケア以降、自由市場主義な仕組みからどんどんと社会主義的なシステムに移行しています。オバマケアで皆保険になりましたし、医療保険会社は利益の上限を設定され、それ以上儲けた場合には被保険者にお金を返すことが法律で義務づけられました。アメリカの医療・医療保険の市場は「自由市場(Free market)」から「規制された市場(Regulated market)」に移行しつつあります。ちなみにサマーズは医療・医療保険に関しては自由市場主義ではありません。むしろ”社会主義的”であると言うことができ、皆保険推進派であり、健康に投資することは最も有効な投資であると主張しています(http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(13)62105-4/abstract)。ハーバードに限らず、アメリカの名の通った医療経済学者で、医療制度および医療保険制度が自由主義の方が良い(「うまく機能する」という経済学的視点での「良い」です)という主張をしている人は皆無だと思います。経済学者で、医療経済学のトレーニングを積んでいない人の中には自由市場主義の人もいるかもしれませんが、アメリカでは医療経済学は独立した分野であると考えられているので、その他の分野を専門とする経済学者が発言力を持つことはあまりありません。以上のような理由により、アメリカで今後、医療・医療保険が自由市場主義にシフトしていくことはなく、むしろ社会主義的になっていくという流れであると考えられます。

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  3. 高橋 秀和 より:

    津川様

    お忙しいところ、返答頂き有難うございます。
    今回のご説明で、疑問が解けたように感じます。企業側のレントシーキングや、新自由主義イデオロギーに対して、適切に判断・対応する動きが存在するということですね。

    新自由主義経済政策の筆頭とされる米国と比較しても、日本のそういった動きは弱いようです。社会民主主義的政策を志向するであろう厚労省ですら、そのスタンスを保ち続けることに困難を抱えているように思います。

    ご説明の内容について、書籍ではこれまで分かりませんでした。
    とても有難いです。又の機会があれば、どうぞ宜しくお願い致します。

    津川様の今後のご活躍を期待しています。

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    1. Yusuke Tsugawa より:

      高橋様、

      そうですね、日本の医療が進んでいる方向性には実は私もとても危惧しております。医療・医療保険に関しては自由市場主義 vs. 社会主義という思想の対立ではなく、医療経済学のセオリーおよびデータに基づくエビデンスから「残念ながら医療・医療保険に関しては自由市場は機能しない」と決着がついています。アメリカは自由市場から規制された市場に移行しつつあり、英国は公的制度の中に競争原理を導入しており、いずれの国も「きちんと規制された市場の中である程度の競争を維持する」医療システムに収束しつつあります。おそらく日本にとってもそれが進みべき方向性であり、よってよほどの根拠がない限りは医療に関する規制を緩和するべきではないと考えています。

      日本で自由市場の方向に向かっているのは医療費や効率の問題ではなく、医療と言う市場から利益を得たい民間企業の思惑(profit-seeking behavior)だと思います。民間企業としては非常に魅力的なマーケットですので。アメリカでは医療経済学者や彼らが出すエビデンスがあるので民間企業はなかなか自由にできない部分もありますが、日本では医療経済学は十分発展していないので、アカデミアや政府関係者からのエビデンスに基づいた大きな反対もなく(医師会などが反対するとすぐに既得権益を守ろうとしているというラベルを貼ることができますし)、営利企業が政策に大きな影響力を持ちやすいのではないでしょうか?政府の諮問委員会などを見ても、医療が自由市場に開放されたら自らが利益を得られるような利益相反のある人が委員に選ばれている時点で、政策決定プロセスの公益性や中立性が保たれていない可能性があると危惧しております。

      今後ともよろしくお願いいたします。

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    2. Yusuke Tsugawa より:

      高橋秀和様、こちらこそコメント頂きありがとうございます。自分の中でも何をどのように説明すべきなのかとても勉強になります。ちなみに高橋様のコメントを受けて、オバマケアと自由市場主義に関するブログを書かせて頂きました。また何かあれば気軽にコメントを頂けると幸いです。今後ともよろしくお願い致します。

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  4. HT より:

    医師が需要を操作できるのなら、産科医を増やせば少子化は解決できますね。Physician Induced Demand 理論は、(少なくとも日本では)もっぱら政府(官僚)の医療市場への介入を正当化するために役立っているように思えます。

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    1. Yusuke Tsugawa より:

      コメントありがとうございます。そうですね、需要を惹起できる病態とできない病態があると思います。例えば高血圧の患者さんの受診回数や狭心症患者への心臓カテーテル検査・治療の需要は医師が誘発できると思います。がん検診を積極的にやることでがんの患者さんの数を増やすことも可能です。要は医療のグレーゾーンの部分の需要は誘発することができます。一方で、医師には妊婦の総数を増やすことはできませんので、産科医療に関しては医師誘発需要のインパクトは小さいと考えられます。医師の専門を政府が決めることはできません。産科医療の診療報酬を大幅に上げて、産科医になった方が他の医師になるよりも収入が大幅に高いという状況を作り出せば、産科医になる人の数も増えるかもしれません。そのようにして産科医の数が増えれば、どの地域に住んでいても安心して子供を生めるようになり、出生率は少し上がることが予想されます。不妊治療は需要を誘発できると思いますので、不妊治療費を医療保険でカバーするか補助金を出せば、少子化は緩和されると思います。

      クリックしてs5.pdfにアクセス

      こちらのP101の図を見て頂ければ日本でも医師誘発需要が存在しているのが分かって頂けると思います。2002年にMRIの診療報酬が大幅に下がったところMRIの撮影回数が30%ほど減りました。MRIが必要な病態がこのタイミングに合わせて減ることはありません。MRIの単価が下がれば患者さんの自己負担額は逆に減るので、患者さんサイドで需要が下がることもあり得ません。(2002年より前の時には)医師側が需要を誘発していたと考えるのが一番自然だと思います。

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