ロールズの正議論-格差原理と基本財

John_Rawls

(出典:Wikipedia

前回のブログに引き続いてジョン・ロールズの正議論の説明をします。倫理学の分野を説明するにあたって私が重要視するポイントが二つありますのでご説明しておきたいと思います。

一つ目は、医療政策学における倫理学は学問としてではなく、「使う」ためのツールであると考えます。倫理学や哲学に限らずおおくの学問に共通することだと思いますが、学問のための学問であってはならず、「使える」ようになる必要があると言うことです。倫理学の議論をするとどうしても議論がどんどん抽象的かつ複雑になりがちです。大学などで学問として倫理学をやっているのであればそれでも良いのかもしれませんが、医療政策学のコンテキストで倫理学を捉えると目の前の問題を解決することが何よりも重要です。そのためにはできるだけシンプルにとどめておき、目の前の問題に当てはめていき、テーブルを囲んでいる人たちが同じ視点で議論ができるような環境を整えること(英語ではLeveling the playing fieldと表現します。同じフィールドに立っているというイメージです)が重要であると考えます。

二つ目は、倫理学・哲学に関する知識は無くても全く構いませんが、知識が無いと議論に参加できないような文化は避けるべきだと考えます。日本はどうしても知識偏重型の教育をするので、そのトピックに関する知識が十分ないと議論をしにくい雰囲気があると思います。しかし、限りある資源をどのように分配するかという問題は、知識を持った学者だけで考えるべき事柄ではないことは明らかです。倫理学にはデータの基づいたロバストなエビデンスがあるわけではありません。よって偉い学者が何と主張したかを知識として持っていることはあまり重要ではなく(なぜならそれはエビデンスに基づいたものではなくあくまで個人の考えですので)、自分たちの頭で考え、決断をすることが何より重要です。そのためには、知識よりも考え方のフレームワークを学び、自分たちの頭で考え、その社会にとってベストとなるような答え(社会的価値Social valueなどと呼びます)を導き出すとが必要だと考えます。そのフレームワークとして情報提供させて頂いたのが、前回のブログでご紹介した、ロールズの思考実験である「原初状態」と「無知のベール」なのです。

それでは、ロールズの残りの話に戻りたいと思います。今回は「格差原理」と「基本財」に関してご説明して、最後に、ロールズの正議論に対する批判とノーマン・ダニエルズがどのようにロールズの正議論を発展させて行ったかを簡単にお話しします。

格差原理(Difference principle)

格差原理とは、「社会的・経済的不平等は、それが最も恵まれない人たちにとって利益になる時にのみ正当化されうる」とするものです。

これを理解するためには、平等と公平の違いを説明した方が良いと思います。日本語では違いが分かりにくいのですが、平等(Equality)とは「横並びに同じこと」(Sameness)であり、その人がどんな人であれ同じ商品には同じ価格を請求するイメージです。一方で、公平(Equity)とは「公正でありフェアであること」(Fairness)のことであり、同じ商品を販売してもお金がある人には高めの金額を提示して貧困者には安い価格で提供するようなイメージです。下図を見て頂いた方がイメージが沸くかもしれません。

Equality and Equity

日本で平等や公平と言う言葉を使うときには、往々にして「横並びに同じ」である平等のニュアンスで使われていることが多いように感じています。例えば、生活保護者が医療機関を受診した場合には自己負担を求めていません。この場合、同じ医療サービスを受けていても払っている金額が違うので、公平ではあるものの、不平等だと考えられます。それが良いことなのか悪いことなのかは社会全体で考えるべきものですが、少なくとも平等と公平の違いを理解した上で議論を進める必要はあると考えます。

基本財(Primary goods)

初めに断っておきますが、この基本財の項目に何が含まれるべきなのかは議論の的になっており正解はありません。私も特にスタンスは取っておらず、内容に関してはあまり深入りしない方が良いと考えています。しかし、コンセプトを理解することは有用であると思われるため、ご紹介します。ロールズは格差原理は功利主義(Utilitarianism)を超えると主張しました。功利主義とは経済学の基本となる考え方であり、「個人の効用(Utility)の社会全体での総量が最大になるような状態が望ましい」としています。この効用とは、個人の幸福度や満足度のようなイメージでとらえて頂ければ良いと思います。ロールズの格差原理では、この効用ではなく、基本財という観点で捉えます。基本財とは、「賢さ、健康、権利、自由、所得や富など」であり、あらゆる合理的人間が欲するものであるとされています。ロールズはこういった基本財に関して、平等な分配が望ましいと主張しました。

ロールズの正議論に対する批判

ロールズの正議論に対する批判の一つとしてあるのは、全ての人が健康であり、身体機能や認知機能に問題が無いと仮定していることです。また、健康は他の「財」と比べて特別なのか?健康に関する不公平は許されないのではないか?という議論もあります。これに関しては、ノーマン・ダニエルズが深く考察しているので、次回ご説明したいと思います。

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