(写真:Axelle Geelen/クリエイティブ・コモンズ表示 2.0 一般)
アメリカで臨床をしている外科医の約15%が外国の医学部出身であり、International Medical Graduate(IMG)と呼ばれる。日本と同様で、アメリカでも外科医のなり手は減ってきており、IMGの果たす役割は大きくなってきていると言われている。その一方で、英語力(アクセント)やコミュニケーション能力の問題もあるのかもしれないが、IMGである外科医は患者や同僚に差別を受けていたり、上司や研修プログラムの責任者に正当に評価されていない場合もあるという報告がある。
2017年に私たちの研究グループは、内科医においてIMGが治療を担当した患者の方が予後が良い(入院後30日死亡率が低い)ことを国際学会誌BMJに報告しているが、外科医においても同様の結果が得られるかは分かっていなかった。
今回、私たちの研究グループは外科医が執刀医になった患者の予後を評価した。その結果、①術後死亡率(手術後30日以内もしくは手術のための入院中に死亡する確率)、②手術の合併症発生率、③入院期間の3つのアウトカムのいずれにおいても、IMGとアメリカの医学部出身の外科医との間で差が無いことを、国際学会誌であるAnnals of Surgery誌(外科領域におけるトップジャーナルの一つ)に発表した。
今回の研究では、高齢者向けの公的医療保険であるメディケアのレセプトデータを解析した。65~99歳の患者で、2011~2014年の間に、数の多い13個の外科手術のいずれかを受けた約64万人の患者を解析対象とした。
IMGとアメリカの医学部出身の外科医を比較する際には、患者の重症度(主病名、併存疾患、年齢など)、外科医の出身医学部以外の特性(年齢や性別など)、治療を受けた病院の特性で補正した。つまり、同じ病院に勤務するIMGとアメリカの医学部出身の外科医を比較していることになる。
解析の結果、以下のような結果が得られた。
外国の医学部出身の外科医 | アメリカの医学部出身の外科医 | 2群の違い* | 95%信頼区間 | P値 | |
術後死亡率 | 7.3% | 7.3% | 1.01 | 0.96~1.05 | 0.79 |
合併症発生率 | 0.8% | 0.8% | 0.95 | 0.85~1.06 | 0.37 |
入院日数 | 6.5日 | 6.5日 | +0.02日 | -0.05日~+0.08日 | 0.59 |
*術後死亡率と合併症発生率はオッズ比、入院日数は日数の差で示す。
2つの集団の間で統計的な有意差を認めない場合には、サンプルサイズが足りず統計力が足りない場合がある。しかし、約64万件の手術のデータというかなり大きなサンプルサイズを用いており、また推定値の95%信頼区間も狭いため、今回の研究では統計力不足であるという可能性は低く、IMGとアメリカの医学部出身の外科医の間では本当に差が無い可能性が高いと解釈してよいだろう。
アメリカには、日本の医学部出身で活躍している外科医もいるが、必ずしも公平な扱いを受けているわけではないと思われる。このような実証データに基づいたエビデンスが蓄積することで、彼ら彼女らにも、差別のないより公平な勤務環境が提供されることが期待される。