国際的な医学雑誌であるBMJに、2020年2月5日付で、Cedars-Sinai Medical Centerの五反田紘志先生との共同研究の結果が掲載されました。この論文は、オバマケアにより、低所得者向けの公的医療保険であるメディケイド(アメリカの連邦政府と州政府が共に財源を提供している)の取得基準が緩和されたことで、低所得者層の医療費自己負担額がどのように変化したのか、について検証したものです。オバマケアによってメディケイド拡大の詳細については、以前のブログをご参照下さい。
過去の研究で、2014年のオバマケアによってメディケイド拡大によって、低所得者層におけるメディケイド保持者が増え、無保険者が減った、と報告されていました。一般に、無保険の状態で医療サービスを受けると、高額な医療費を全て自分で払わなければならないですが、メディケイドを保持していれば、自己負担なしで(あるいは少額の自己負担で)医療サービスを受けられます。これを前提とすると、メディケイド取得者増加(と無保険者の減少)により、低所得者層の医療費自己負担額は平均として低下するのが予測されます。ですが、実際には、メディケイド保持者を受け入れない医療機関があったり、メディケイドでカバーされない医療サービスがあったりするため、本当に医療費自己負担額が減ったのかを検証する必要があると考えられました。
そこで、私たちは2010年から2017年のMedical Expenditure Panel Survey(MEPS)と呼ばれる全国調査のデータを用い、オバマケアによってメディケイド拡大によって、低所得者層の自己負担額が全米レベルでどのように変化したかを検証しました。約38,000人の19歳から64歳の低所得者(緩和されたメディケイド取得基準を満たす人々)のデータを、メディケイド取得基準緩和を導入した州に住む人たち(介入群)、導入しなかった州に住む人たち(対照群)に分け、差の差分析を用いて解析しました(比較の詳細は以前のブログ参照)。その結果、オバマケアによってメディケイドが拡大した3年後および4年後に医療費自己負担額が28.0% (95%信頼区間:15.8%~38.4% ;P<0.001)減少した、ということが分かりました。
メディケイド取得基準緩和の大きな目的は、低所得者層に安価な医療保険を提供して、医療サービスを受ける際の経済的負担を軽減することでしたが、今回の我々の研究結果からは、メディケイド取得基準緩和を導入した州では、その目的が達成されたと考えられます。ただ、メディケイド取得基準緩和を導入していない州が現時点で14州もあり、今後の動きが注目されます。
原著論文(BMJ): https://www.bmj.com/content/368/bmj.m40
UCLAのプレスリリース: http://newsroom.ucla.edu/releases/medicaid-expansions-lower-out-of-pocket-spending
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