ホームレスの患者を多く治療している病院の方が、ホームレスの患者の再入院率・救急再受診率が低い

米国総合内科学会の学会誌であるJournal of General Internal Medicine (JGIM)に2020年7月14日付で、東京大学の宮脇敦士先生、ハーバード大学医学部の長谷川耕平先生との共同研究の結果が掲載されました。この論文では、ホームレスの患者が退院後に病院に戻ってくる割合(退院後30日以内の再入院率・救急再受診率)が、ホームレスの患者を多く治療している病院の方が、ホームレスの患者をあまり治療していない病院よりも低いことを明らかにしました。

米国では50−60万人がホームレス状態にあると推計されており、25人に1人が一生の間にホームレスを少なくとも1度は経験するという報告もあるなど、ホームレス問題は長年深刻な課題です。過去の記事でも述べたとおり、ここでのホームレスは日本で一般にイメージされるような、「路上生活者」だけでなく、シェルターなどの一時的な宿泊施設に滞在している「不安定な住環境にある(housing insecurity)」人々も含んでいます。

ホームレスの人々はホームレスでない人々に比べ精神疾患や薬物問題、生活習慣病などの問題を抱えている割合が多く、社会的サポートも少ないことから死亡率も高いことが知られています。その中でも、ホームレスの人々は、病院でケアを受けた後に再入院・救急再受診のような病院に戻ってくる割合が高いことが以前より指摘されてきました。

再入院・救急再受診は患者に最善の治療が提供されていなかったことを示唆しており、ホームレスの人々自身や医療システムにとって負担となります。最近では、退院時調整(discharge planning:プライマリケアやソーシャルサービスにつなげて継続的な治療が受けられるような環境を調整すること)を適切に行うことが再入院や救急受診を減らすために重要だと考えられており、2019年にはカリフォルニア州が、ホームレスの人々が退院する際の退院時調整を、病院に義務付けました。

しかし、どのような病院でホームレスの患者が病院に戻ってくる割合が低いか、ということはこれまで知られていませんでした。

そこで、私達のグループはまず、4州(フロリダ, マサチューセッツ, メリーランド, ニューヨーク: 全米のホームレスの30%程度をカバー)の全急性期病院に2014年に入院した18歳以上の患者のデータを用いて、ホームレスとホームレスでない人の、患者や病院の性質で調整した後の、退院後30日以内の再入院率・救急再受診率を比較しました。その結果、退院後30日以内の再入院率は、27.3% vs 17.5%、救急再受診率は、37.1% vs 23.6% とホームレスの人々のほうが高いことが確かめられました。

次に、ホームレス患者を多く治療している病院(=全患者のうちホームレスの人々の割合を算出し、その上位10%をHomeless-serving hospital [HSH]と定義した)で治療を受けているか、そうでない病院で治療を受けているかによって、ホームレスおよびホームレスでない人々を分類し、再入院率・救急再受診率を比較しました。その結果、ホームレスの人々の退院後30日以内の再入院率は、23.9% vs 33.4%、救急再受診率は、31.4% vs 45.4%とホームレスを多く見ている病院から退院したときのほうが、そうでない病院から退院したときに比べ、病院に戻ってくる割合が低いことがわかりました(下図のオレンジ)。一方で、ホームレスでない人の間では、ホームレスを多く見ている病院から退院した場合も、そうでない病院から退院した場合も、30日以内の再入院率・救急再受診率は変わりませんでした(下図の青)。

図1

*オレンジの棒グラフはホームレス患者、青の棒グラフはホームレスではない患者を表す。HSH(Homeless-seving hospital)は多くのホームレス患者を治療している病院、non-HSHはホームレス患者をあまり多く治療していない病院のことを指す。

今回の私達の研究結果は、ホームレスの人々の再入院率・救急再受診率は、治療を受ける病院の性質に大きく左右されることを示しています。これは、ホームレスとホームレスでない人の格差の少なくとも一部が治療を受ける病院によって説明されるということを意味しています。今後、どのような因子がホームレスの人々の再入院・救急再受診を減らすことができるのか、さらなる研究が望まれます。

日本でも路上生活者の方だけでなく、いわゆる「ネットカフェ難民」や簡易宿泊所の宿泊者など、安全な住環境が確保されていない方々は大勢います。そのような方々の病院で受ける医療の質や一般人口との格差、および格差があるとするならば、治療を受ける病院によってそれがどの程度説明されるのかを調べることで、健康格差のメカニズムの一端を明らかにすることができるかもしれません。

原著論文(JGIM):https://doi.org/10.1007/s11606-020-06029-0

 

 

 

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