Go Toトラベル利用者の方が、新型コロナウイルス感染症を示唆する症状をより多く経験していることが明らかに

※本論文はプレプリントであり、著者ら以外の専門家からの科学的検討(査読)はまだ受けておりません。しかし、政策上重要なテーマであるため、速報性を重視するために公開しております。

新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)が世界中で猛威を振るっており、日本でも冬を迎えて感染者数の再増加を経験しています。

新型コロナに感染することに対する恐怖および、感染拡大を防ぐために多くの国で行われている外出自粛要請や移動制限などの対策は経済に悪影響を与えており、多くの国で新型コロナの感染拡大を防ぎながら経済活動を活性化する方法を模索しています。

日本では飲食業や観光業を救済する目的で、2020年7月22日から国内旅行(Go Toトラベル)に対して、10月1日からは飲食店の利用(Go Toイート)に対して政府が補助金を出しています。飲食店の利用に対する補助金は、日本だけでなく英国などでも実施されています。

日本のGo To トラベル事業には11月末時点で2000億円の政府予算が投じられており、延べ4000万人が利用している世界的に見ても大規模な事業です。11月からの新型コロナ感染者数の増加を受けて、この事業が新型コロナの感染拡大を増悪させているのではないかと懸念されていました。しかし、Go To トラベル事業と新型コロナの感染リスクの関係性は十分に分かっていませんでした。

そこで今回、私達の研究チーム*は、GO TOトラベル利用者の新型コロナ感染リスクを明らかにするため、15−79歳を対象とした大規模なインターネット調査(2020年8月末〜9月末に実施)によって集められてデータの解析を行いました。

*宮脇敦士(東京大学大学院医学系研究科)、田淵貴大(大阪国際がんセンターがん対策センター疫学統計部)、遠又靖丈(神奈川県立保健福祉大学大学院保健福祉学研究科)、津川友介(カリフォルニア大学ロサンゼルス校[UCLA]) によって構成される共同研究チーム。

GO TOトラベルの利用経験(過去1−2ヶ月以内の利用の有無)と、過去1ヶ月以内に新型コロナを示唆する5つの症状(①発熱、②咽頭痛、③咳、④頭痛、⑤嗅覚/味覚異常)を経験していた人の割合との関連を調べました

性別・年齢・社会経済状態・健康状態などの影響を統計的に取り除いた上で、Go To トラベルの利用経験のある人は、利用経験のない人に比べて、過去1ヶ月以内に発熱(Go Toトラベル利用者4.8% vs. 非利用者3.7%; オッズ比 1.9)、咽頭痛 (20.0% vs. 11.3%; オッズ比 2.1)、咳 (19.2% vs. 11.2%; オッズ比 2.0)、頭痛(29.4% vs. 25.5%; オッズ比 1.3)、嗅覚/味覚異常 (2.6% vs. 1.7%; オッズ比 2.0)を、より多く認めていたことがわかりました(図1)。

この結果は、Go To トラベル事業の利用者は非利用者よりも新型コロナに感染するリスクが高いことを示しており、Go To トラベル事業が新型コロナ感染拡大に寄与している可能性があることを示唆しています。

図1 Go To トラベル利用の有無別の新型コロナを示唆する5つの症状の有症率

性別・年齢・社会経済状態・健康状態で調整した値を表示。

年齢と基礎疾患の有無による層別化解析

また、年齢および基礎疾患の有無**で層別化した分析も行いました。その結果、Go To トラベルの利用経験による有症率の違いは、65歳以上の高齢者よりも、65歳未満の非高齢者で顕著でした(表1)。この結果は、高齢者の方が新型コロナ感染を恐れているため、たとえ旅行をしても慎重に行動し、その結果として感染リスクを増加させていなかった可能性を示唆しています。

**過体重・高血圧・糖尿病・心疾患・脳卒中・COPD・がんのうち少なくとも1つを持つか否か

一方で、基礎疾患の有無によって、Go Toトラベル利用と有症率との関係は変わりませんでした(表2)。

これらの結果は、現在日本で検討されている高齢者と基礎疾患のある人をGo Toトラベルの対象外とする方法が、新型コロナの感染拡大のコントロールにあまり有効ではない可能性が高いことを示唆しています。

表1 高齢者 vs 非高齢者で分けた分析

性別・年齢・社会経済状態・健康状態で調整した値を表示。P<0.05(太字):統計学的に有意

表2 基礎疾患なし vs 基礎疾患ありで分けた分析

性別・年齢・社会経済状態・健康状態で調整した値を表示。P<0.05(太字):統計学的に有意。

波及効果、今後の予定

本研究は、日本全国の大規模なデータを用いて、Go To トラベルの利用した経験のある人は利用経験のない人に比べて、発熱・咽頭痛・咳・頭痛・嗅覚/味覚異常を呈する割合が高いことを示しました。これらの症状、特に嗅覚/味覚異常は新型コロナを強く示唆する症状であり、Go To トラベルの利用者はより新型コロナに感染しているリスクが高いと考えられます。

このことは、Go To トラベル事業が、新型コロナ感染拡大に一定の影響がある可能性があることを示唆しています。現在のGo To トラベルのやり方は新型コロナ感染リスクの高い集団にインセンティブを与える形となっており、感染者数の抑制のためには、対象者の設定や利用のルールなどについて検討することが期待されます。今後の研究では、より厳密なGo To トラベルの影響の分析や他のGo To事業の感染への影響の調査を行い、どのような形のインセンティブ事業が感染拡大を防ぎながら経済活動を活性化させることができるか、必要な知見を明らかにする予定です。

本研究の限界点

本研究の限界としては、① Go To トラベルの利用が直接的に新型コロナ症状の増加につながったという因果関係は断定できない、② Go To トラベルの利用と新型コロナ症状の発生率との間の時系列的関係が不明、③ 新型コロナ症状を持つ人が、必ずしも新型コロナに感染しているわけではない、④ 新型コロナ症状を持つ人が、その原因としてGo To トラベルの利用を思い出しやすい可能性(思い出しバイアス)等が挙げられます。

本成果は、12月4日付けで、プレプリントサーバーmedRxivに公開されています(査読前原稿)。

<研究者のコメント>

今回の結果は、以下の2通りの解釈が可能です。

① Go To トラベル利用によって新型コロナ感染のリスクが増加した可能性 

② 新型コロナの感染リスクの高い人の方がより積極的にGo To トラベルを利用している可能性

①である場合、Go To トラベル事業そのものが新型コロナの感染拡大に寄与しているということになります。一方で②の場合はGo To トラベル事業は新型コロナの感染拡大の直接の原因ではないものの、新型コロナに感染しているリスクが高い人が移動していることを示唆しているので、その結果として間接的に新型コロナの感染拡大につながっている可能性があります。

今回の研究では、政策というマクロなレベルでGo Toトラベル事業が日本の新型コロナの感染者数の増加の主な原因であるかは分からないものの、個人レベルではGo Toトラベルを利用している人ほど新型コロナ感染リスクが高いことが明らかになりました。

新型コロナによるパンデミックは我々の健康および社会経済に未曾有の影響を与えており、有効なワクチンや治療法が利用可能になるまでは、感染拡大を抑制しながら、経済活動を活性化する必要があります。しかし、Go Toトラベルのような経済政策も、新型コロナの感染拡大を引き起こしてしまえば、ロックダウンのようなより厳しい追加的な対策が必要となることで、結果として経済により大きなダメージを与えることになってしまいます。

Go Toトラベルのような政策をより適切に行うためには、なるべく感染リスクの低い集団の経済活動を喚起するように制度設計すること(Go Toトラベル利用者は登録制にしてCOCOAなどの追跡システムを用いて感染拡大をコントロールする流行地発着の除外・感染伝播リスクの高い集団の利用を一時的に制限・感染伝播リスクの高い集団で旅行前のPCR検査の義務化など)が望ましいと考えます。

<2020年12月6日追記>年齢、性別、所得水準、基礎疾患の有無など個人の特性だけでなく、居住地(都道府県)でも補正しています。つまり、同じ都道府県に住む人で、ToGoトラベル利用者と非利用者を比較したものが今回の研究になります。

******

1.背景

2020年11月末までに、新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)は全世界で6200万人が感染し、140万人が死亡しています。日本でも、感染者は15万人以上、死亡者は2000人以上にのぼります。

この未曾有のパンデミックに取り組むため、多くの国では、ロックダウン、移動制限、検疫、国境管理など、ウイルスの拡散を抑制するための公衆衛生対策を実施しており、今後も断続的に実施される可能性があります。これらの公衆衛生対策は、感染拡大に効果がある一方、経済には大きなマイナスの影響を与えています。

この影響を緩和するために、多くの国で、レストランの利用や旅行などの経済活動を金銭的なインセンティブを用いて促す介入が検討されています。しかし、このようなインセンティブ事業が新型コロナの流行にどのような影響を与えるのかは、十分なエビデンスがありません。

7月から我が国で始まったGo To トラベル事業は、世界的に見ても大規模なインセンティブ事業です。そこで、今回、この政策を例に取り、大規模なインターネット調査を用いて、Go To トラベルの利用経験がある人は、利用経験のない人に比べて、過去1ヶ月以内に新型コロナを示唆する症状(発熱・咽頭痛・咳・頭痛・嗅覚/味覚異常)を持つ割合が高いかどうかを調べました。

2.研究手法・成果

Go To トラベルを利用した人と利用しなかった人では、年齢・性別・社会経済状況・健康状態のような背景が異なる事が考えられます。そのため、単純に比較すると、見かけ上感染リスクに差が出てしまう可能性もあります。そこで私達は、できるだけGo To トラベルの利用自体のリスクを評価するために、これらの背景を、統計モデルを用いて揃えて(=統計学的調整)比較を行いました。

その結果、調査時点(=8月末〜9月末)でGo To トラベルの利用経験のある人は、利用経験のない人に比べて、過去1ヶ月以内に新型コロナを示唆する症状を呈する割合が、発熱では1.1%、咽頭痛では8.7%、咳では8.0%、頭痛では3.9%、嗅覚/味覚異常では0.9%高いことがわかりました。

また、15-64歳(非高齢者)と65-79歳(高齢者)で別々に分析を行ったところ、新型コロナを示唆する症状を呈する割合は非高齢者で顕著に高く、また、Go To トラベル利用の有無による新型コロナ症状を呈する割合の統計学的な有意差も、非高齢者のみに見られました。

3.研究プロジェクトについて

本研究は、東京大学大学院医学系研究科 宮脇敦士、大阪国際がんセンターがん対策センター疫学統計部 田淵貴大、神奈川県立保健福祉大学大学院保健福祉学研究科 遠又靖丈、カリフォルニア大学ロサンゼルス校 (UCLA) 津川友介の共同研究であり、The Japan “新型コロナ and Society” Internet Survey (JACSIS) 研究(研究代表者:田淵貴大 [大阪国際がんセンター])のデータを分析しました。

2020年8月末〜9月末にかけてインターネット調査会社を通じて行われたアンケート形式の質問表調査を用いています。この調査では、人口分布を考慮して全国からランダムに選ばれた15-79歳の28000人に対し、調査時点でのGo To トラベルの利用経験、過去1ヶ月以内の新型コロナを示唆する症状の有無を性・年齢・社会経済状態・健康状態と共に把握しています。

<論文タイトルと著者>

タイトル:Association between Participation in Government Subsidy Program for Domestic Travel and Symptoms Indicative of the COVID-19 Infection(GO TOトラベルの利用経験と新型コロナウイルス感染症を示唆する症状との関連について)

著  者:Atsushi Miyawaki, Takahiro Tabuchi, Yasutake Tomata, Yusuke Tsugawa.

プリプリントサイト: MedRxiv  

リンク:https://doi.org/10.1101/2020.12.03.20243352

<お問い合わせ先>

宮脇 敦士(みやわき あつし)

所属・職位 東京大学大学院医学系研究科・助教

E-mail: amiyawaki-tky@umin.ac.jp

田淵 貴大(たぶち たかひろ)
大阪国際がんセンターがん対策センター疫学統計部・副部長
E-mail: tabuti-ta@mc.pref.osaka.jp

17件のコメント 追加

  1. 川瀬章 より:

    サンプルのリクルーティングについての記載とそれに対する考察はありますでしょうか?  ネット調査にはサンプルバイアスをどのように補正するか、それが妥当かどうかがよく議論になるので、その点を踏まえて公開するほうがよろしいかと思います。

    いいね

    1. 津川 友介 より:

      コメントありがとうございます。ご指摘のようにインターネット調査に参加する人は若いなどの傾向があります。この影響を最小化するために、サンプリングの確率の逆数を使った重みづけ解析を行っております。その結果として、解析結果はインターネット調査のサンプルではなく、一般的な日本国民をサンプルとした場合の数字(推定値)になっています。

      いいね

  2. TT より:

    「本研究の限界点」として、「② Go To トラベルの利用と新型コロナ症状の発生率との間の時系列的関係が不明」と書かれていますが、調査時の設問の設定の仕方によっては、この時系列関係も調査可能かと思われます。
    例えば、「Go To トラベル利用後2週間以内に、これらの症状が発生しましたか?」など。
    今回、そのような調査がなされていない理由を教えてください。

    いいね

    1. 津川 友介 より:

      今回の研究は8-9月に他の目的で実施された調査のデータを解析しており、調査にはご指摘のような質問項目は含まれておりませんでした。

      いいね

  3. れい より:

    例えばSmell and Taste Disorderの割合がGoTo非利用者で1.7%、利用者で2.6%っていうのはアンケート当時の累積PCR陽性率(0.6%程度)を見ても、抗原検査の結果(各種報道では皆1%未満)を見ても、異常に高い値数値で、明らかにサンプルに偏りがあり、「一般的な日本国民をサンプルとした場合の数字」とはとても言えないのですが、どういうことでしょう?

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