黒人男性の手術後に死亡する確率は、黒人女性や白人よりも高い

私たちの研究グループは、アメリカの65歳以上の大規模医療データを用いて、黒人男性の患者の外科手術後に死亡する確率(術後死亡率)が、黒人女性や白人の患者の術後死亡率と比べて高いことを明らかにしました。この研究は、2023年3月1日に国際的な医学雑誌であるBMJにオンライン掲載されました。

 アメリカでは、人種による健康格差が大きな問題となっており、これまでの研究で、黒人の術後死亡率が他の人種に比べて高いことが明らかになっています。また、黒人男性は、黒人女性や白人と比べて平均寿命が短いことが知られており、人種だけでなく性別が健康アウトカムにとって重要な要因であると考えられます。しかしながら、人種と性別の組合せによって術後死亡率がどのように異なるかについては十分に分かっていませんでした。

 そこで、私たちは、アメリカの全国規模の医療データであるメディケアの診療報酬明細データを用いて、人種と性別の組合せによる術後死亡率の違いを明らかにする研究を行いました。2016年から2018年の間にアメリカで外科手術を受けた65歳から99歳の約186万人の黒人と白人の患者について、人種と性別でグループ分けして術後死亡率を比較しました。

その結果、術後30日死亡率(手術を受けたあと30日以内に死亡する確率)は黒人男性で3.05%(患者の重症度の違いの影響を取り除いたあと)であったのに対し、白人男性では2.69%、白人女性では2.38%、黒人女性では2.18%であり、黒人男性は他の人種および性別の集団と比べて術後死亡率が統計的に有意に高いということが分かりました。この傾向は、予定手術でも同様に認めました。一方、緊急手術では、黒人男性の術後死亡率は白人・黒人女性に比べて高かったものの、白人男性との間に統計的に有意な差は認めませんでした。

図. 人種・性別別の予定手術後の死亡率

注:患者要因などを統計的に調整した値を示す。エラーバーは95%信頼区間を示す。

 今回の研究結果は、アメリカにおける構造的人種格差(Structural racism)を(少なくとも部分的には)寄与していると考えられます。例えば、居住者の多くが黒人の地域では、近隣の病院の医療設備が不十分である傾向にあることが先行研究によって分かっています。さらに、黒人男性は、黒人女性と比較して、より多くの社会的ストレスに晒されていて、術後の身体機能の低下をきたしやすいということが過去の研究から報告されており、それが今回の結果に寄与している可能性もあります。

今後の研究によって、今回の結果の背景に潜む詳細なメカニズムの解明が待たれます。

本論文に関してCNNで特集記事が掲載されました。

https://www.cnn.com/2023/03/01/health/black-patients-surgery-disparities-study

原著論文(BMJ):Ly D P, Blegen M B, Gibbons M M, Norris K C, Tsugawa Y. Inequities in surgical outcomes by race and sex in the United States: retrospective cohort study BMJ 2023; 380 :e073290 doi:10.1136/bmj-2022-073290

https://www.bmj.com/content/380/bmj-2022-073290.full

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