アメリカの大統領選挙と大統領制について考えてみた

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ボストンのオールドハウス集会場で講演するヒラリー・クリントン元国務長官(筆者撮影)

マサチューセッツ州の予備選挙を明日に控えて、ヒラリー・クリントン氏がボストンで政治集会を行いました。アメリカの大統領選挙はこのまま行くとヒラリー・クリントン(民主党) vs. ドナルド・トランプ(共和党)という構図になってしまいそうですが、今回は時事的なことではなくアメリカの政治システムに関してもう少し普遍的なことをお話ししたいと思います。

大統領制 vs. 議院内閣制

日本のように議院内閣制を取っている国では、国民は議員を選挙で選ぶことのできますが、国のトップ(首相)を国民が選ぶことはできません。一方で、アメリカのような大統領制を採用している国では、国民は国のトップ(大統領)を国民自身が自分で選ぶことができます。正確に言うと、アメリカでは国民は直接大統領を選ぶわけではなく、それぞれの州の住民が大統領選挙人を選んで、大統領選挙人が大統領を選ぶシステムを取っています。しかし、国民が間接的にしろ純粋に誰に大統領になってほしいかという声を反映させる方法として大統領選挙があるアメリカに対して、日本は首相になってほしい人を選ぶためには、その人が所属している党の国会議員を選ぶしかありません。その党が与党になっても、自分が首相になって欲しい人が本当に首相になる保証はありません。さらには、アメリカでは大統領は民主党のヒラリーになって欲しいけど、地元の上院議員は共和党の議員になってほしいという意見を投票行為に反映させることも可能です。しかし日本では、地元の国会議員の候補者がたとえどうしようもない人だったとしても、自分が首相になって欲しいと思っている人を党の党首にするためにはその候補者に票を入れるしかありません。

 大統領制  議院内閣制
 民意の反映  直接反映する  間接的に反映する
 議会との関係  議会と対立すると国政が停滞する  議会と調和的
 政権基盤の強さ  政権基盤は強い(任期保証)  政権基盤は弱い(責任を問われる)
 民意との乖離  ダメな大統領も解任が困難  ダメな首相は解任が容易

(出典:Hisasi Nando氏のホームページより一部改変)

日本でも首相を直接選ぶ政治のスタイルが良いと主張している記事などを時々見かけますが、実際にはどのような違いがあるのでしょうか?私の主観の部分もありますが、ご紹介します。

1.大統領になるためには国民に対するコミュニケーションがうまい必要がある

オバマ大統領も、ヒラリーも、他の候補者もみんな話が上手で、コミュニケーション能力が高いです。これは当たり前のことだと思います。直接国民に語り掛けて、国民の票を得ないと選挙には勝てないからです。彼らはきちんとトレーニングを積んでいるので、テクニックの部分でプレゼンが上手であることは言うまでもありませんが、それに加えて教育レベルの高い人であろうと低い人であろうと理解してもらえるように、難しい言葉を使わずに説明する能力に長けている必要があります。逆に言うと、どんなに政治力があっても、国民に自分の考えを伝える能力が無ければアメリカの大統領にはなれません。国民にきちんと理解してもらえなくても、場合によっては国会議員にさえ理解してもらえればなることのできる日本の首相と比べて、国民に直接選んでもらう必要のある大統領の特色なのかもしれません。

2.大統領制は大統領が説明責任を果たすインセンティブが強い

アメリカの制度は大統領に説明責任を果たすインセンティブを与える仕組みでもあると思われます。候補者は、自分が大統領になったらどうするかを自分自身の口から伝える必要があります。実際に大統領になった後にそれが実現できなかったとしても、その責任は自分にあることは明らかです。さらには、例え大統領になれたとしても4年後に再び選挙が待っています。自分がはじめの4年間で何をやっていたのか、自分自身で再び国民に伝える必要があります。4年前に公約したことを実行に移さなかった場合、それは全部自分の選挙結果に返ってきます。残念ながら上手くいかなかったことに関しても、きちんと何があったのか説明しておかないと国民の信だけでなくて、自分の職も失ってしまいます。日本の首相はその都度きちんと国民に説明しなかったとしても、必ずしも自分の職を失うことには繋がらないので、アメリカの大統領ほど国民に対して説明責任を果たすインセンティブが強くはないのかもしれません。

3.大統領制は国民のエンパワーメントにつながる

アメリカでは国民は自分の票によって自分の国のトップが決まるという感覚を持っているため、自分自身の声が聞かれているという感覚があると思います。実際には、国民一人一人の声が大統領選に反映されているわけではないでしょう。しかし、候補者の話を聞きに行き、場合によっては対話を行い、その結果として自分で足を運んで票を投じるのであれば、その結果に対して少なくとも何らかの「力」を持っているという感覚はあると思います。その結果として、選挙に対する「熱量」も違います。まずは、ヒラリーが入場する前にボランティアの人たちがいかに場を盛り上げようとしているかを見てください。

 

 

熱狂ぶりがすごいですよね。私はヒラリーが次のアメリカの大統領になると信じている!とみんな叫んでいるのです。次に、ヒラリーが入場したときの観衆の興奮の様子を見てください。

 

 

候補者が自分の口で大統領になったらどのような国にするのか説明し、それをサポートする国民がその候補者を勝たせて自分の力で「大統領にする」。自分の声が多少なりとも受け止められている感覚を持つことができるのはそんな理由もあるのだと思います。投票率はアメリカも日本も大きくは変わらないものの、選挙に対する「熱量」はかなり違うように感じました。

4.大統領制にデメリットはあるのか?

アメリカに来て大統領制の政治を見てきて、大統領制のデメリットはそれほどあるようには感じていません。昔は議院内閣制では首相は党の意向を考慮しなくていけないのでポピュリズムになり、大統領制では大統領に権限が集中すると言われていたようですが、今の日本とアメリカを見るとすでにそのロジックが成り立たないことは明らかです。アメリカの大統領よりも日本の首相の方が権力は強くなっていると思います。さらには、三権分立がきちんと成り立っているアメリカではチェック・アンド・バランスが機能しているのに対して、日本は司法も違憲判断を積極的にしないこともあり三権分立(もしくは司法によるチェック機能すら)が機能していないような印象を受けます。

オバマ大統領は、それが「倫理的に正しいこと」であると信じていたため、政治的にリスクの非常に高いオバマケアを法律として通しました。今までの大統領はことごとく医療制度改革に失敗しており、ビル・クリントンに至っては医療制度改革に失敗したために職を失ったと言われています。それでもなお、オバマ大統領は医療制度改革に挑戦しました。オバマ大統領はどうにか医療制度改革に成功して、アメリカに皆保険制度を導入しましたが、その結果として上院も下院も共和党が大多数になってしまい、大統領(行政) vs. 議会(立法)という構図になってしまいました。この対立にどこが決着をつけるのかというと、それは最高裁判所(司法)が違憲判断をするかどうかです。オバマケアも複数の最高裁裁判を生き延びてきましたが、最高裁の判断が、それぞれのトピックに関して最終判断ということになります。大統領と議会が対立した場合には最高裁が決着を付ける、と言う形で政治と言うゲームのルールがしっかりしているのがアメリカの政治です。それに比べて、日本は行政、立法、司法によるチェック・アンド・バランスの機能が弱く、最終判断を誰が(どの機関が)するのかいうルールが明確ではないように思われます。

大統領制のデメリットとして、①議会と対立すると国政が停滞するということと、②不適切な人が選ばれてしまっても解任が困難、という2つの理由がしばしば挙げられます。しかし、議会と大統領が対立するのには多くの場合、それなりの理由があります。オバマ大統領が議会と全面対立に陥ってしまったのは、オバマケアの経緯をきちんと国民に説明をし続けることが不十分であったため、国民が手のひらを返したためであると思われます。つまり、国民の声を反映させる形で、大統領と議会の対立が生まれたのです。大統領と議会の対立が生まれるのにそれなりの理由があるのであれば、それによって国政が停滞するのは仕方ないと思います。むしろ、何らかの問題があっても、国民の声を反映させることなく、そのまま国政が滞りなく進んでしまうことの方が問題なのかもしれません。

次に、不適切な人が選ばれてしまっても解任が困難、というのも本当にデメリットかどうか考える必要があります。例えばオバマケアのような長期的視野に立った政策をデザインして、議会を通して、導入するのにはまとまった時間が必要です。もしいつどこでも解任させると思ったら、短いスパンでリターンが得られるような政策しか通せなくなってしまいます。さらには、日本の制度が、必要に応じて首相を解任させることができるシステムなのかどうかもはなはだ疑問です。日本のような制度では、「不適切な人」であるかどうかは国民ではなく国会議員が判断することになります。そして、首相と国会議員の間には多くの利害関係があるので、本当に国や国民の利益を考えてそのような判断をすることは難しいのではないでしょうか。

現在のアメリカの大統領選挙の状況を見て思ったことを徒然なるままに書かせて頂きました。学術的なデータやセオリーを用いて行った考察ではないので、かなり感覚的な部分もありますが、「アメリカの今」と大統領制と議院内閣制の違いを考えるきかっけにして頂けたら幸いです。

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