ニューズウィークの病院ランキングは、客観的な医療の質の指標と相関するのか?

2019年3月、アメリカの週刊誌であるニューズウィークが「世界の病院ランキング」を発表した。

それまでの病院ランキングは各国で行われており、国をまたいだものは珍しかった。アメリカ国内の病院ランキングとしては、US News and World Reportが確固たる地位を確立しており、各病院はこのランキングで上位になることに毎年苦心している。US News and World Reportのランキングが優れているのは、病院毎の専門医数や症例数、評判だけでなく、30日入院死亡率や再入院率など、病院で提供される医療の質に関する客観的指標もランキングに考慮されているという点である。

日本でも複数の週刊誌が病院ランキングを発表しているが、医療の質に関する客観的指標に基づいているとは言い難いものがほとんどであり、患者さんからすると何を基準の病院を選んでよいのか迷ってしまうのではないかと思われる。日本以外にもこういった問題を抱えている国は多いだろう。

ニューズウィークの病院ランキングは、国の境界を越えて、ある程度統一された基準で病院を評価したという点では画期的である。しかし、各国で病院レベルの死亡率や再入院率などのデータを入手できるわけもないため、評価基準としては、(1)同業者(主に医師)による評判(50%)、(2)患者満足度(15%)、(3)KPI(医療の質や感染予防措置の有無など)(30%)の3つによって評価されている。

ちなみに日本では、下記のようなランキングであった。評価基準の影響か、大学病院が上位にランキングされやすい傾向があるようだが、市中病院でも聖路加国際病院、倉敷中央病院、亀田メディカルセンターなどが上位にランキングされ、これらは私たち医師の感覚から言っても評判のよい病院であると言いと思われる。

ランキング

病院 スコア
1 東京大学病院 98.2
2 聖路加国際病院 96.4
3 倉敷中央病院 94.7
4 京都大学病院 94.7
5 順天堂大学病院 94.2
6 大阪大学病院 94.0
7 亀田メディカルセンター 93.2
8 九州大学病院 93.2
9 帝京大学病院 92.9
10 国立国際医療研究センター病院

92.8

このランキングの結果が信頼できるものなのかという疑問の声があったため、今回、私たちの研究チーム(東京大学の宮脇敦士氏と私の共同研究)は、(日本の病院ごとの医療の質のデータは入手できないため)アメリカのデータを用いて、このランキングの妥当性の評価を行った。その研究結果は、アメリカの医学雑誌Journal of General Internal Medicine誌に掲載された。

私達は、アメリカの全ての急性期病院のデータを用いて、このランキングが、医療の質に関する客観的指標である、(1)リスク補正後の入院患者の30日死亡率(入院患者の重症度の違いの影響を取り除いた上で、入院患者さんが入院日から30日以内に死亡する確率)と、(2)30日再入院率(入院患者の重症度の違いの影響を取り除いた上で、退院した患者さんが退院日から30日以内に再入院する確率)との相関を評価した。

その結果、ランキングの高い病院ほど、30日死亡率(p-for-trend<0.001)も30日再入院率(p-for-trend=0.004)も統計的に有意に低いという結果が得られた(下図)。

図1

ニューズウィークの病院ランキングは、医療の質を直接的に反映させたものではないものの、少なくともアメリカのデータに関しては病院のアウトカムと相関があるという結果が得られた。

もちろんこの結果を持って、ニューズウィークの病院ランキングの日本版も信用できるということは言えないものの、日本のデータでも同様の結果が得られる可能性はあるだろう。日本の患者さんのためにも、日本国内のデータで検証できる人は是非検証して頂けると幸いである。

論文へのリンク:https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs11606-019-05212-2

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