政府を信頼している人の方が、新型コロナ感染を予防する行動をより頻繁に行っている

米国総合内科学会の学会誌であるJournal of General Internal Medicine (JGIM)に2021年6月22日付で、シーダーズサイナイ病院一般内科の五反田紘志先生、東京大学大学院医学系研究科の宮脇敦士先生、および、大阪国際がんセンターがん対策センター疫学統計部の田淵貴大先生との共同研究の結果が掲載されました。この論文では、日本において、政府をより信頼している人の方が、政府をあまり信頼していない人よりも、新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019:COVID-19)への予防行動(手洗いやマスク着用など)をより頻繁に行っている、ということを明らかにしました。

COVID-19に対するワクチン接種は世界各国で本格化していますが、発展途上国での接種の遅れや、先進国においてもみられるワクチンへの不信感から、COVID-19への予防行動の重要性はいまだに高いと考えられます。過去の感染症に関する研究から、政府への信頼度と感染症への予防行動は関連があることが示唆されていましたが、政府への信頼度とCOVID-19への予防行動の関係性は十分に分かっていませんでした。

そこで今回、私達の研究チームは、2020年8月末〜9月末にかけて行われた大規模なインターネット調査である、「日本における新型コロナウイルス感染症問題による社会・健康格差評価研究」(The Japan COVID-19 and the Society Internet Survey:JACSIS)のデータを用いて解析を行いました。JACSISは、インターネット調査会社を通じて行われたアンケート形式の質問票調査で、人口分布を考慮して全国からランダムに選ばれた15-79歳の28000人に対し、調査時点での政府への信頼度およびCOVID-19への予防行動について、年齢・性別・社会経済状態・健康状態等と共に把握しています。

政府への信頼度やCOVID-19への予防行動は、年齢・性別・教育歴・健康状態・地域の状況等によって異なる事が考えられ、それらを考慮に入れないと誤った解釈につながる可能性があります。そこで私達は、これらの要素による影響を統計学的にできるだけ取り除いて比較を行いました。その結果、政府をより信頼している人のうち、COVID-19への予防行動を頻繁に行っている人の割合が、政府をあまり信頼していない人に比べて、約5%高いことが分かりました(83.8% vs. 79.5%)(図参照)

この結果は、政府への信頼度が、新型コロナ感染拡大防止に一定の影響がある可能性があることを示唆しています。ただし、この研究の限界点として、(1)政府への信頼度を上げればCOVID-19への予防行動が増える、といった因果関係を示したわけではない、(2)5%の予防行動の違いがCOVID-19の感染拡大にどれくらいの影響を与えているのかは明らかではない、(3)データはすべて自己申告であるバイアスの可能性がある、といったものがあり、結果の解釈には注意が必要です。

原著論文(JGIM):Gotanda H, Miyawaki A, Tabuchi T, Tsugawa Y. Association Between Trust in Government and Practice of Preventive Measures During the COVID-19 Pandemic in Japan. J Gen Intern Med. 2021 Jun 22:1–7. doi: 10.1007/s11606-021-06959-3. Epub ahead of print. PMID: 34159544; PMCID: PMC8218973.
https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs11606-021-06959-3

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