臨床業務に従事している日数が多い医師ほど患者の死亡率が低いことが明らかに

(写真:Axelle Geelenクリエイティブ・コモンズ表示 2.0 一般

私達の研究チームが行った最新の研究によると、年間臨床勤務日数の少ない医師が治療した患者の死亡率は、年間臨床勤務日数の多い医師が治療した患者の死亡率よりも高いことが分かりました。医師を年間臨床勤務日数で四分位群に分けたところ、年間臨床勤務日数が最も少ない群の医師が治療した患者の死亡率は10.5%である一方、年間臨床勤務日数が最も多い群の医師が治療した患者の死亡率は9.6%であり、この2つの群には0.9%の死亡率の差がありました。これは臨床的に無視できない差だと考えられます。

子育てなど家族のケア、研究、管理職業務を行うためといった様々な理由から、米国ではパートタイムで臨床を行う医師は増加傾向にあります。しかし、パートタイムで臨床を行う医師が提供する医療の質が、フルタイムで臨床を行う医師の提供する医療の質と比べて同じか否かは、これまでほとんど検証されていませんでした。そこで本研究では、病院に緊急入院し、ホスピタリスト(入院治療を専門にしている内科医)の治療を受けた患者を対象に、医師の年間臨床勤務日数と患者死亡率の関係を検証しました。

本研究の結果は、パートタイムで臨床を行うことは患者の死亡率増加をもたらす可能性があり、そのような事態を防ぐためには、パートタイムで臨床を行う医師に対する追加的な支援が必要である可能性を示唆しています。

本研究成果は、2021年9月13日に米国医学誌の「JAMA Internal Medicine」にオンライン掲載されました。

1.背景

子育てなど家族のケアを行うため、研究を行うため、またバーンアウトを防ぐためといった様々な理由から、パートタイムで臨床を行う医師(以下、パートタイム医師という)は増加傾向にあります。アメリカでは1993年には全医師の11%だったパートタイム医師が、現在では25%まで増加したという研究結果があります。

このようにパートタイム医師は増加傾向にあるものの、提供する医療の質がフルタイムで臨床を行う医師(以下、フルタイム医師という)の提供する医療の質と比べて同じか否かは、これまでほとんど検証されていません。先行研究では、パートタイム医師の方がフルタイム医師よりも、患者の満足度やプロセス指標で測った医療の質の観点で優れていることが示されています。しかし、先行研究はサンプルサイズが小さく、かつ、外来医療を対象としており、外来を受診した患者がすぐに死亡することは珍しいことから、患者死亡率という最も重要な医療の質への影響が検証されていません。加えて、外来では深刻な病気を抱えている患者がフルタイム医師を主治医とすることを選んだり、パートタイム医師が重症な患者をフルタイム医師に紹介したりする可能性があり、外来患者を対象にフルタイム医師とパートタイム医師で患者のアウトカムを比較すると、患者の重症度の違いによるバイアスの恐れが大きいと考えられます。

そこで今回、本研究グループは、病院に緊急入院し、ホスピタリスト(入院治療を専門にしている内科医)に治療された患者を対象に、医師の年間臨床勤務日数と患者死亡率の関係を検証しました。ホスピタリストは通常シフト勤務をしているため、患者がどのホスピタリストに治療されるのかは、患者が緊急入院するタイミングとホスピタリストのシフトによって決まり、ホスピタリストが患者を重症度で選んでいる可能性は小さくなります。そのため、ホスピタリストが治療した患者に注目することで、患者の重症度が結果を歪めることを防ぐことができます。

2.研究手法・成果

アメリカの大規模医療データであるメディケアデータ(アメリカの高齢者を対象とした診療報酬明細データ)を用いて、各医師の年間臨床勤務日数を推定しました。メディケア患者を治療した医師は診療報酬を得るため、レセプトを提出しますが、そのレセプトには各治療をいつ行ったかという情報が記載されています。そこで、レセプトに何らかの医療行為を行ったと記録されている日数を年ごとにカウントし、それを各医師の年間臨床勤務日数と定義しました(年間勤務日数を推定する際は、緊急入院患者に限定せず、すべての患者を対象に治療を行った日をカウントしました)。年間臨床勤務日数が非常に多い、もしくは非常に少ない医師の存在が結果を歪めることを防ぐため、年間臨床勤務日数の上位10%・下位10%の医師は分析から除外しました。

次に、メディケアデータを用いて、病院に緊急入院し、ホスピタリストに治療された患者を対象に、上のように定義した年間臨床勤務日数と患者死亡率の関係を検証しました。医師を年間臨床勤務日数で四分位群に分け、それぞれの群の医師に治療された患者の死亡率を比較しました。この比較を行う際、様々な患者の要因(年齢、性別、主傷病、併存疾患など)、医師の要因(性別、年齢)、及び病院の固定効果を回帰モデルに投入し(病院の固定効果をモデルに投入することで、同じ病院内で治療された患者を実質的に比較しています)、それらの影響を統計的に補正しました。

この研究手法を用いて、2011年から2016年に19,170人のホスピタリストが治療を担当した392,797 件の緊急入院を分析したところ、最も勤務日数の少ない群の医師が治療した患者の死亡率は10.5%である一方、最も勤務日数の多い群の医師が治療した患者の死亡率は9.6%であり、この2つの群には0.9%の死亡率の差がありました(表1)。さらに、四分位より細かく10日ごとに年間臨床勤務日数でグループを作り、各グループの患者死亡率を求めました。その結果、年間130日勤務まではほぼ単調に死亡率が減少し、それより勤務日数を増やしてもはっきりとした死亡率減少が見られないことも明らかになりました(図1)。

表1.担当医の年間臨床勤務日数と患者の 30 日死亡率との関係

年間臨床勤務日数リスク補正後の30日以内の死亡率 (95%信頼区間)患者死亡率のリスク差 (95%信頼区間)P
1四分位群(最も勤務日数の少ない群)10.5Reference
 (10.2 to 10.7)
2四分位群10.0-0.50.002
 (9.8 to 10.2)(-0.8 to -0.2) 
3四分位群9.5-0.9<0.001
 (9.4 to 9.7)(-1.2 to -0.6) 
4四分位群(最も勤務日数の多い群)9.6-0.9<0.001
 (9.4 to 9.7)(-1.2 to -0.6) 

*患者の要因(年齢、性別、主傷病、併存疾患など)、医師の要因(性別、年齢)、及び病院の固定効果(同じ病院内での患者の死亡率の比較となる)で補正した。

図1.担当医の年間臨床勤務日数と30日死亡率との関係

*患者の要因(年齢、性別、主傷病、併存疾患など)、医師の要因(性別、年齢)、及び病院の固定効果(同じ病院内での患者の死亡率の比較となる)で補正した。エラーバーは95%信頼区間を示す。

3.今後の展開

本研究から、パートタイムで臨床を行うことは、患者の死亡率増加をもたらす可能性が示唆されました。しかし、パートタイムで臨床を行うという勤務形態は、医師のバーンアウトを回避したり、医師がワークライフバランスを実現したりするために有効だと考えられます。そのため、パートタイム勤務のメリットを残しつつ、意図せぬ患者のアウトカム悪化を防ぐために、パートタイム医師に対する追加的な支援が必要である可能性があります。今後さらなる研究が蓄積されることで、医師の多様な働き方をサポートしつつ、医療の質をさらに改善する方法が明らかになることが期待されます。

4.研究プロジェクトについて

本研究は、慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科の加藤弘陸特任助教(研究実施時は慶應義塾大学大学院経営管理研究科訪問研究員)、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の津川友介助教授、ハーバード大学のAnupam B. Jena准教授、Jose F. Figueroa助教授の共同研究によって実施し、アメリカの高齢者医療データであるメディケアデータを分析しました。

<論文タイトルと著者>

タイトル:Association between Part-Time Clinical Work and Patient Outcomes(パートタ

イムの臨床と患者アウトカムの関係)

著  者:Hirotaka Kato, Anupam B. Jena, Jose F. Figueroa, Yusuke Tsugawa

掲 載 誌:JAMA Internal Medicine

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