医療経済学の理解に必要なミクロ経済学の基本的な知識

今まで医療経済学の話をいくつもご説明していましたが、それらの土台ともなるミクロ経済学の話をしていませんでした。このブログでは、ミクロ経済学の中でも、医療経済学を理解する上で必要となる基本的な知識とコンセプトだけをご説明いたします。もちろんこの短いブログで説明できることはごく限られておりますので、ご興味のある方はぜひ成書でミクロ経済学をきちんと勉強して下さい。医療経済学は、医療における「市場の失敗(Market failure)」を研究する学問であると理解することもできますが、この市場(Market)がうまく行っている状態を学んでいるのがミクロ経済学*1であると捉えることができます。医療経済学が経済学の一分野として独立したのも、この医療経済学の特殊性(市場の失敗)にあるのだと思います。アメリカでは医療経済学者(Health economist)以外の経済学者が医療に関してコメントをすることはあまりありません。それほど医療経済学とは特殊性が高い分野なのだと認識されているのだと思います。

*1 ウィキペディアによると、ミクロ経済学とは「経済主体の最小単位と定義する家計(消費者)、企業(生産者)、それらが経済的な取引を行う市場をその分析対象とし、世の中に存在する希少な資源の配分について研究する経済学の研究領域」となっています。

1.需要と供給と価格の関係

価格によって需要と供給がどのように変化するのかを表現したのが下のグラフになります。このグラフは商品が一つだけしかない自由市場において、多数の購入者と多数の生産者(企業)の間で取り引きが行われていると仮定しています。

  • 需要・・・価格が下がると消費者の購入意欲が上がり、需要(数量)が増加する。価格が上がると消費者の購入意欲は下がり、需要(数量)は減少する。
  • 供給・・・価格が上がると市場に参入する企業が増えたり、企業が生産量を増やすため、供給(数量)が増加する。価格が下がると市場から脱退する企業が出てきたり、企業が生産量を減らすため、供給(数量)は減少する。

価格を縦軸、数量(サービスや商品の量)を横軸にとると、このグラフのようになります。需要は、価格が上がると数量が小さくなり、価格が下がると数量が多くなります。よって、需要曲線(Demand curve)の傾きはマイナスになります。一方で、供給は、価格が上がると数量が多くなり、価格が下がると数量が少なくなります。供給曲線(Supply curve)の傾きはプラスになります。この2つの曲線が交差するところが自由市場が機能しているときに取り引きされる価格および数量です。この交点での価格を均衡価格(Equilibrium price)と呼び、数量を均衡取引量(Equilibrium quantity)と呼びます。そして、ここに落ち着く時が最も多くの人と企業がハッピーであるとされています。

Suppy and demand curves 1

たとえば企業側が価格を上げたとします。そうすると市場に参入する企業が増えるので供給曲線は上方向に移動します。当初の均衡価格をP0、当初の均衡取引量をQ0とすると、価格はP0からP1に、取引量はQ0からQ1に移動します。これの図がイメージできると、以前ご説明したモラル・ハザード(コンビニ受診)の話ももう少し分かりやすいと思います。

Suppy and demand curves 2

2.限界収益(Marginal revenue)と限界費用(Marginal cost)

ミクロ経済学では「MR=MC」という表現がしばしば出てきます。この状態のときには経済学的に効率的(Efficient)であるとされています。MRとはMarginal revenueの略で、日本語には「限界収益」と呼ばれます(日本語だと何のことを言っているのか分からないので、このブログではMRと表現します)。MRとは、生産量をわずかだけ(最後の一単位だけ)増加させたときの、総収益の増加分のことです。もう少し詳しくご説明します。今現在の生産量をQとし、この状態での総収益をTRとします。Qから一単位だけ生産量を増加させると、生産量はQ+1になります。そしてこのQ+1のときの総収益をTR’とすると、MR=TR’ - TRとなります。実際には微分方程式を用いてこのMRを計算します。

自由市場で市場が機能しているときには*2、MR=市場価格(Price)となります。なぜかと言うと、十分大きな市場であれば企業は取り引き価格に影響を与えることができず、市場で決められた価格を「受け入れる」しかないからです(このようなプレーヤーのことを”Price-taker”と呼びます)。個々の企業の意思決定・供給量・供給価格は、市場全体の取引高に比べて著しく小さいため、市場全体は影響を与えません。それゆえ、市場で決定される市場価格を受入れ、その価格で供給する限り、供給量の多寡に関わらず、その価格で販売できると想定されています。この場合、生産量に関わらず、「MR=市場価格」となります。

*2 ここでは独占Monopolyなどの自由競争が阻害される要因が存在していない状態を想定しています。

MCとはMarginal costの略で、日本語では「限界費用」と呼ばれます。MCは、生産量をわずかだけ(最後の一単位だけ)増加させたとき、総費用(TC; Total Cost)の増加分を指します。MCは多くの場合では下のグラフのようにU字カーブを描きます。商品を生産するのに必要な費用には、固定費用(FC; Fixed Cost)と変動費用(VC; Variable Cost)があります。固定費用とは、生産量(Q)の変化に関わらず生じる一定の費用のことで、建物や機械などの設備をイメージして頂ければ良いと思います。一方で、変動費用とは、生産量とともに変化する費用のことで、生産に必要な原材料、人件費などのことです。個人の家計でいえば、固定費用は家賃、変動費用は、ガス代や電気代と言ったところでしょうか?「総費用(TC)=固定費用(FC)+変動費用(VC)」の関係が成り立ちます。工場を新しく建てて商品を生産するときには、固定費用がかかるため一番初めの一単位を作るのには莫大なコストがかかります。生産量を増やしていくと、商品一単位あたりにかかる固定費用は、「固定費用÷生産量」ですのでどんどん小さくなり、それに伴ってMCも小さくなっていきます。これがこのMCのグラフの左半分の右肩下がりの部分になります。無尽蔵に商品を作れば作るほどMCが小さくなれば良いのですが、実際にはそんなことはなく、どこかの段階で、生産量を増やすほどMCが増大すりょうになってきます。ある時点をすぎると入力(Input)の増加が出力(Output)の増加に結び付かなくなる、と表現することもできます。例えば、工場で働いている人員数を増やしていけばはじめのうちは生産量は増加していきますが、ある時点で設備の面で飽和してしまい(人がたくさんいても空いている機械がなくなってしまいます)、それ以上人員を増やしてもコストばかり増加してしまいます。この現象のことを経済学では、収穫逓減(ていげん)の法則(”Law of Diminishing Returns”)と呼びます。前述のように自由市場においては、MR=価格ですので、MR>MCである限りは(利益が出ますので)企業は生産量を増やし続けます。そしてMR=MCとなる数量が適切な生産量ということになります。これ以上生産量を増やしても、生産にかかるコスト(MC)の方が価格よりも安いので(MR<MC)、企業は損をしてしまうからです。下の図で言うと2つの線が交差することころが企業にとっての最適な生産量になります。次回はこのコンセプトを使って、なぜ選択(Selection)があると医療保険の取り引きされる量は、経済学的に最適なレベルよりも少なくなってしまうのかご説明します(以前のブログでそのようにお書きしましたがその理由をお話ししていませんでしたので)。

MC=MR

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