どの医師に診てもらうかで、かかる医療費が大きく異なることが最新の研究で明らかに

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(写真:Ilmicrofono Oggionoクリエイティブ・コモンズ表示 2.0 一般

2016年8月、「日本の医療費は高額 新基準で世界3位」という記事が日経新聞をはじめとする大手新聞の紙面を飾りました。日本の医療費は約56兆円でGDP比で11.2%であり、OECD加盟国で米国、スイスに次ぐ第3位の高水準となりました。医療費は多くの先進国が頭を悩ませている問題です。強引に医療費を引き下げれば必要な治療を受けるまでの待ち時間が長くなったり、必要な治療を受けることができなくなり(重症患者の「たらい回し」など)、それらが社会問題化すると政権を脅かすことになります。一方で、医療費の問題を先延ばしにすれば、国の財源を圧迫し、教育などの他の用途に使える財源が少なくなってしまいます。しかし、実は医療の質やアクセスに悪影響を与えることなく、医療費抑制に成功する方法を確立することができた国はまだ存在していないのです。

実は、医療における「ばらつき」は1970年代から研究されています。1973年には、権威ある科学雑誌であるサイエンスに、バーモント州の小さな町を比較すると、医療サービスの利用件数が大きく異なるという研究結果が発表されました。例えば、扁桃摘出術の件数は、一番多い地域で人口10,000人あたり一年間に151件なのに対して、一番少ない地域では13件しか施行されていませんでした。扁桃摘出術は扁桃腺炎を繰り返す患者に施行される手術ですが、同じ州内で扁桃腺炎の罹患率が10倍以上異なるとは考えられないため、このばらつきは医療提供側の問題であると考えられました。

アメリカでは、メディケア(65歳以上のアメリカ人はほぼ全員加入する公的保険のこと)に加入している人の一人当たりの年間医療費の平均値が、(年齢や性別などで補正した後)住んでいる地域によって70%も異なることも知られています。その後、多くの研究において地域間の医療費のばらつきに関しては認められています。医療現場においては医師が意思決定に大きな影響をおよぼすため、医療費の規定因子として地域よりも医師の方が重要であるにも関わらず、同じ病院の医師間でどれくらい医療費が異なるかは知られていませんでした。

そこで今回、私達ハーバード大学の研究チームは、アメリカの65歳以上の高齢者が全員加入する公的医療保険であるメディケアのレセプトデータを用いて研究を行い、その研究結果JAMA Internal Medicine誌(2017年3月13日オンライン版)に掲載されました。研究の結果、2つのことが明らかになりました。

  1. 同じ疾患の治療でも、かかる医療費は医師の間で大きく異なり、医師間の違いは、病院間の違いよりも大きい(医療費を安く抑えようと思ったら、正しい医師を選ぶことの方が、正しい病院を選ぶことよりも重要である)。
  2. 同じ病院で勤務している医療費の高い医師と、医療費の低い医師を比較すると、患者の死亡率・再入院率ともに差が無かった。

2011~2014年に内科疾患で入院し、一般内科医によって治療された患者のデータを解析しました。約3,000の病院に勤務する、約50,000人の内科医によって治療された、約800,000入院のデータが解析に用いられました。

まずは、入院医療費のばらつきのうち、患者要因、医師要因、病院要因のそれぞれで説明できる割合を計算しました。その結果、表1のように(同じ病院内の)医師間の医療費のばらつき(10.5%)の方が、病院間の医療費のばらつき(6.2%)よりも大きいことが明らかになりました。

表1.病院、医師、患者要因によって説明できる入院医療費のばらつき

病院によって説明できる医療費のばらつき 6.2%
医師によって説明できる医療費のばらつき 10.5%
患者によって説明できる医療費のばらつき 83.3%

(注)一般内科医によって治療された患者のデータを用いた。

次に、医師レベルの医療費と患者のアウトカム(30日死亡率および再入院率)との関係を解析しました。患者要因(年齢、性別、人種、主病名、27個の併存疾患、家庭収入、貧困層向けの医療保険であるメディケイド加入の有無)、医師要因(年齢、性別、卒業した医学部)、病院(病院固定効果を用いたため、同じ病院で医師間の比較をしたことになる)で補正しました。それでも補正できない(観察されない)患者の重症度の違いがありうるため、下記の2つの方法を用いました。

主解析はホスピタリストの解析を行いました。ホスピタリストは入院患者のみを治療する医師であり、現在では全米で50,000人以上のホスピタリストが診療しており、75%の病院はホスピタリストを有しています。ホスピタリストはシフト勤務をしているため、患者が入院を要する疾患が発症したときにたまたま勤務している医師が担当医となるため、医療費の高い医師と低い医師で患者の重症度はあまり変わらないと考えられます。さらに、たまたま重症患者を診療しているために、その医師は医療費が高くなり、患者のアウトカムも悪くなることを防ぐため、2011-2012年のデータを用いて医師の医療費のレベルを計算し、次に2013-2014年のデータを用いて患者のアウトカムを評価しました。

解析の結果、医師の医療費レベルと患者の死亡率および再入院率の間には関係が無いことが明らかになりました(図1)。

図1. 医師の医療費レベルと患者のアウトカムの関係

(A)30日死亡率

図1A

(B)30日再入院率

図1B.jpg

(注)縦軸はリスク補正後の死亡率(A)および再入院率(B)、横軸はリスク補正後の医師の医療費を表す。患者要因および病院でリスク補正を行った。

医師の医療費が100ドル増加すると、死亡に関するリスク補正後のオッズ比は1.00(95%信頼区間 0.98~1.01、P=0.47)、再入院に関するリスク補正後のオッズ比は1.00(95%信頼区間 0.99~1.01、P=0.54)でした。

医師間の医療費のばらつきが大きいことより、医療費を適切に抑制したい場合には、病院だけでなく医師の診療パターンに直接影響を与える政策がより有効であると考えられました。また、医師の医療費のレベルと患者の予後との間には関係が無かったことより、医師レベルの医療費は医療の質を犠牲にすることなく抑制できる可能性があることが示唆されました。

増加する医療費はアメリカだけでなく、日本でも大きな問題です。日本でも同様の結果が得られるかどうかは現時点では分からないものの(日本でも同様の研究が行われることが望まれます)、医療の質を落とすことなく医療費抑制するためには、医師の診療パターンのばらつきを理解し、それが医療費や患者の健康にどのような影響を与えるかを評価することが重要であると考えられます。

今回の研究結果は、ウォールストリートジャーナルニューヨークタイムスハーバードビジネスレビューなどに取り上げられました。

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