若い医師の方が担当患者の死亡率が低い

私たちの最新の論文が5月16日付のBMJ(英国医師会雑誌)に掲載されました。私たちは2011~2014年に内科疾患で入院した65歳以上の患者において、担当医の年齢が患者のアウトカム(死亡率、再入院率、医療費)にどのような影響を与えるのか検証しました。

過去の研究において、年齢が上の医師と若い医師では診療パターンが異なることが示唆されていました。約60つの研究を統合したシステマティック・レビューによると、高齢の医師のほうが若い医師と比べて、医学的知識が少なく、ガイドラインどおりの治療を行わないことが報告されています。しかし、医師の年齢と患者の死亡率などのアウトカムに影響があるかどうかに関しては分かっていませんでした。そこで、私たちは今回、医師の年齢と患者のアウトカムの関係を解析しました。

専門科の違う医師を比較するのを防ぐため、担当医が①ホスピタリスト(入院患者のみを治療する内科医師)と②一般内科医師(ホスピタリスト+ホスピタリストではない一般内科医)である場合に限りました。解析の段階で患者の重症度(年齢、性別、併存疾患、収入)は補正し、同じ病院で勤務する年齢の上の医師と若い医師の患者のアウトカムを比較しました。

主解析はホスピタリストに治療された緊急入院となった患者を対象としました。年齢が上の医師と若い医師では患者の特性が違う可能性があります。患者の年齢、性別、併存疾患、収入などでは補正したものの、データで測定することができない形で、若い医師のほうがより軽症(もしくはより重症)の患者を診ている可能性が否定できません。ホスピタリストはシフト勤務しているため、自分の担当患者を選ぶことはありません。また緊急入院に限ることで、患者が医師を選択する可能性も最小限にしようとしました。

約18,800人のホスピタリストによって治療された730,000入院のデータが解析に用いられました。その結果、担当医師の年齢が若い方が患者が入院30日以内に死亡する確率(30日死亡率)が低いことが明らかになりました。リスク補正後の30日死亡率は以下の通りでした。

表.医師の年齢と患者の30日死亡率との関係

医師の年齢(歳) リスク補正後の30日死亡率(95%信頼区間)
<40 10.8%(10.7%~10.9%)
40-49 11.1%(11.0%~11.3%)
50-59 11.3%(11.1%~11.5%)
≧60 12.1%(11.6%~12.5%)

※患者の重症度(年齢、性別、人種、主病名、27の併存疾患(Elixhauser comorbidity index)、世帯収入、貧困層向けの医療保険であるメディケアに加入しているか、入院した曜日)、医師の特性(性別、卒業した医学部)、入院した病院(病院の固定効果を用いた)で補正した。

医師の年齢を連続変数で見ると、60歳以上になると患者の死亡率はより急に上昇することが明らかになりました。

図.医師の年齢と患者の30日死亡率との関係

図1.jpg

ホスピタリストではなく、一般内科医師全体で見ても同じ結果が得られました。

次に、医師が担当している入院患者の数が多いか少ないかで層別化分析を行いました。その絵結果、年間の担当患者数が少ないもしくは中等度の医師に関しては、年齢が上がるほど患者の死亡率が上がることが分かりました。その一方で、担当患者数が多い医師のグループにおいては、医師の年齢と患者の死亡率の間に関係は認められませんでした

担当医の年齢と退院してから30日以内に再入院となる確率(30日再入院率)との間には相関は認めませんでした。担当医の年齢が上がると、かかる医療費は若干高くなることも明らかになりました。

患者は一般的にある程度年齢の上の医師を好む傾向があると思われますが、それが本当に腕の良い医師に見てもらっていることになるのかどうかは考え直す必要があることが今回の研究で明らかになりました。患者は医師の年齢や性別などによって先入観を持つことなく、客観的なデータを元に医師の診療の質を測ることの重要性が明らかになりました。これはもちろんアメリカのデータを用いた研究ですので、そのまま日本に適用できるかどうかは分かりません。日本のデータを用いた同様の研究が望まれます。

朝日新聞(5月19日朝刊):http://www.asahi.com/articles/ASK5K5QZ4K5KULBJ012.html

読売新聞(5月27日夕刊):http://www.yomiuri.co.jp/national/20170527-OYT1T50086.html

原著論文(BMJ):http://www.bmj.com/content/357/bmj.j1797

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